つくばエクスプレスに揺られる帰り道、私はおばあちゃんが言った
「どうせこの世は男と女しか居ないから」
の言葉を思い出しながら、それぞれの想いを察してみた。
始まりは春人伯父さんの駆け落ち(?)
年上獣医の静さんと、和歌山で農業をする為にグループ後継者の地位を捨てた伯父さん。
表向きは「電撃結婚」なんて言われてたが、息子の嵐が言うには、ニワトリがダイヤモンドの卵を産むというトンでも研究に目が眩んだ仮面夫婦らしい。
物心ついた時から息子でなく、助手として働かされた嵐は愛に飢えてたと思う。単純にお父さんの愛情、お母さんの愛情が欲しかったと思う。
でもそれは私達だって同じだ。
英才教育を強いられた麗香お姉さんや、格闘家の道を決められた凛子お姉ちゃん、そして「危険」と「世間」から遠ざけられた私…。
全ては親が子を想う気持ちが動機で、その時直ぐにはそれが愛情ってわからないのだ。
泣いて怒って衝突して、離れた視点と誰かの気持ちに寄り添って初めて自分の気持ちと、自分の気持ちを想う誰かの気持ちがわかるんだ、ってこの帰り道で私は思った。
ただ私達姉妹と嵐の違いは、嵐はどんなに両親を愛しても、どんなに両親が憎くてももう会えないっていうこと。
嵐があまりに普通に振る舞って、あまりに研究にしか興味がなく、そのくせ周囲に荒っぽい優しさを振り撒くから…。
私と同じ16歳で寂しくないわけないじゃない!!
私、ホント馬鹿だ…。
舞花は…嵐の優しさや強さだけでなく、弱さや寂しさも受け止めてるのかな…?
嵐は…私に言わない弱音を舞花に話してるのかな…?
だとしたら…敵わないや…。
8歳の私が言った
「嵐くんのお嫁さんになる」
の言葉を嵐が忘れてて舞花と付き合ってるなら、二人を祝福したい。
嵐が憶えていながら舞花と付き合ってるなら…少しは悪あがきしたい…かな…?
あの時川で溺れなければ、なんて絶対に言わない。
あの件で年長者の雪之介は一番責任を感じ、麗香お姉さんの気持ちを押し殺して「影」に徹することを選んだのだから。
私に雪之介の選択を非難出来ない。
これもひとつの愛の形だ。
研究を続けることで親の存在を感じる嵐のように。
そして「この世は男と女しか居ない」のセリフは私にヒントとなった。
そう、嵐が鶏子ちゃんにダイヤモンドの卵を産ませるのに必要な仮説が私にはある。
動物の世界も「雄と雌」ということだ。
さぁ、東京駅が見えてきた。