「私が千葉のおばあちゃん家に一人で行く。」
ただこれだけの事でお母さんとパパは猛反対し、いつしか私そっちのけで言い争いが始まった。
さっきまで私の世間知らずっぷりを大笑いしてた嵐は急に黙って鋭い目で二人を見ていた。
「だいたい貴方が甘やかしてるんの軽音部の入部を認めるから!」
「学外でバンド活動して不良と付き合うくらいなら、学園の部に籍を置く方が安全と思っただけだよ!
同じ部には瀬能の令嬢も在籍してるし…。」
まさかここでパパから舞花の名前が出されるとは意外だった。
私の軽音活動は、私の成長を喜んでくれるてこそと思ってた。
舞花とも私の親友だからこそ、喜んでくれてると思っていた。
でもパパとお母さんは「私が作った友人」を喜んだのではなく、「グループ傘下の娘さん」と仲がいいのが嬉しかったのだ。
「わかったわ…。
全く…旧華族御用達の相野学園の伝統は何処にいったのかしらね…。
部外者達に経営を任せたのが間違いかもね…。
解りました。
明日にでも理事長に軽音部は廃部にさせるよう打診します。
るん、貴女は吹奏楽部に入りなさい。」
「だから何でそんな話になるのよ!
お母さんのそういう所が大嫌い!」
改めてお母さんの、麗香お姉さんとそっくりな強引さを目の当たりにして、遂に私も大声で反発すると…。
「すまん、こっからは親子だけの問題やな。
俺は席外させて貰うわ。
雪之介さんに月之介さん、あんたらもやで!」
急に席を立ち上がり、食卓に背を向ける嵐。
そして名を呼ばれた二人が慌てて追随する。
「も、申し訳ございません嵐様。私達としたことが…。」
「そうだよね、確かに僕達は立ち入らない方がいい問題だよね。」
「るん、叔父さん、叔母さん。
俺は大賛成や。
でも、この中でホンマに『自分がやりたいこと』を出来た人間は誰もおらんやろ?
結論出たら後で教えてな。
んじゃ、雪之介さん、俺の研究室におにぎりでも運んでくれや。」
嵐はまたも私達に確かなメッセージだけを残して去っていった。
この後の会話を聞かれなくて良かった。
お母さんから
「だから三番目くらいは自由に育てようと決めたのに!」
と言われたからだ。
嵐に聞かれなくて本当に良かった。
「相野るん」じゃなくて「三番目」…。
いつ、おばあちゃん家に行くかじゃない。私は明日の未明に出発することにした。
相野るん、人生初の大冒険?かもしれません。