「一人旅」
なんて言うには大袈裟だけど、私には切実過ぎる問題。
東京の自宅から千葉の流山まで一人で電車の切符を買って、一人で目的地までたどり着くこと。
それは私自身が世の中に大きく飛翔出来るか?の試金石の様に思えた。
「どうやら最短の目標が決まったあるね?
未来を見つめてる者はいい目をしてるある♪」
憧れは人を努力させる動機になるかもしれない。
凛子お姉ちゃんに「いい目をしてる」なんて誉められたのは生まれて初めての様な気がする。
ううん、麗香お姉さんは勿論、パパもお母さんも私を誉めてくれない。
パパが誉めてくれる時はいつも、二人の姉の異常さを揶揄する時に「私の普通さ」を引き合いに出す時だけだった。
「応援するね、るん。
私からおばあさんにはそれとなく連絡しとくある。」
「ねぇ、お姉ちゃん、どうせならパパとお母さんにも…。」
「駄目ある。
るんは応援するが、父さんと母さんの間に入って交渉はしないある。
旅はそこから始まってるある!」
まただ…。
そうよ、私のこの依存が駄目な私の原因じゃない…。
お姉ちゃんは次女でも、相野家と距離を置いてたから、私に愛情を持って叱ってくれるんだわ…。
「うん、自分で話してみる…。
でも、お願い!
嵐には、話し合いがまとまるまで秘密にしてて。
嵐が知ったら、絶対に大声でバカ笑いするから!」
「るん、どうせいつかバレることある。
それに『恥をかくのも強者の道の一つ』あるね。
さぁ、もう遅いある。
今日は寝るね。
ふゎぁ~、寝不足じゃ早朝稽古で月之介に負けてしまうね♪」
「ご、ごめんなさい!長いことありがとう。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
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翌日以降の食卓も、授業も部活も特に変わりなかった。
嵐と舞花の仲の良い姿を見れば胸がチクチクするが、嵐は「親友の彼氏」と思えるようになろうしていた。
そして遂に私は夕食の席で切り出した。
「お母さんは反対よ、るん!
一人でそんな危ないことをさせられません!」
「パパも賛成出来ないな…。
おばあちゃんに会いたい気持ちは嬉しいけど、るんにはまだ早い。」
「どうして?
私もう16よ!
嵐は喪主を立派に務めたのに、私は自分で電車の切符も買ったことないなんて恥ずかしいよ!」
「るん、お前それネタちゃうんか?
どんだけお嬢さんやねん?」
「そうよ…悪かったわね!」
「アハハハー!」
ホントに笑ったー!大嫌い!