化学の授業中
「…で、あるからしてショ糖即ち、皆が一般に言う砂糖と、塩化ナトリウム、即ち塩を同じに水に溶かせば、殆ど塩の味しかしない。
その明確な理由は相野!」
「はい、電解質としての原子量を比較するとブドウ糖として180、塩化ナトリウムとしては35.5
これが同じグラム数だけ溶かしたとすれば、塩の方が6倍水に溶けやすいことになります。」
「はい、正解。前の学校ではもうここまで進んでたのかい?」
「…ええ、まぁ。」
嵐が理系に強いことは知ってたけど、私が通い馴れた教室で賢い所を見せられると改めて驚くな…。
古典に次いで眠くなる授業No.2の化学さえも、嵐がクラスに巻き起こす旋風で大盛況だ。
みんな私達、相野家の男の子がやって来ると知り、戦々恐々としていた。
しかし、嵐の背が低く太い眉と全体的に田舎くさい雰囲気に女子は直ぐに興味を無くした。
それに比して男子は直ぐに打ち解け盛り上がっていた。
気さくに同性と流行りの漫画の話題で盛り上がる様子は転校初日とは思えないくらいだった。
さっきまでは普通だったのに、三時間目の数学と、四時間目の化学の授業でみんな嵐を見る目が変わっていった。
「おいおい、やっぱり馬鹿難しい編入試験を簡単に合格したってのはウソじゃなかったんだな…。」
「誰だよ、相野家の人間だから名前書いたら合格とか言ったのは…。」
「別に大したことないで!
数学、化学、生物は個人的に勉強しとるだけや!」
****
昼休み
「私、理科も数学も苦手なんです。
相野君、テスト前はノート見せてくれますか?」
タイミングを見計らってか、お昼ご飯を食べ終わった途端に舞花が嵐に話しかけた。
それも他の男子が離れた瞬間に!
私がずっと恐れていた瞬間だった。
舞花は翌日から何事もなく登校してきた。
麗香お姉さんの事は一切口にせず、私とは軽音部のことしか話さなかった。
そして今朝、嵐が手続きの為に職員室に行った時に舞花は私に言った。
「相野君とるんはただの従兄弟だよね?」
と。舞花は命の恩人として嵐が5割増しにカッコ良く見えてるだけだと思ってた。
でも…。
「確か瀬能さんやったな?
おぉ、顔の腫れももう残って無くて良かったやんか!」
「ご、ごめんなさい!私ったら先にあの時のお礼を言わなきゃ…。」
「可愛い顔に何もなかったらそれでええんや…。」
「え?」
嵐は左手で舞花の頬を優しく撫でた!