「それではみなさんごきげんよう。天界へお越しの際はいつでもこのサマエルがご案内致します。」
と言って、肉体を元の神尾少年に返した。
一緒に居た三人の少女も正気に戻ったようだが、サマエルの運命操作は最後まで効いて、誰も疑問を抱かない。
それよりも皆がバラムの器用なカードマジックに釘付けになっていた。
「ではサマエル様に代わり、僕からも皆様に問題です。
『サンタクロースは良い子にプレゼントを運んで来ますが、トナカイは良い子に何を運んで来るでしょう?』
皆様も自由な発想で考えてください。」
おいおい、サマエルの謎解きが済んだと思ったら今度はバラムか?
「えー?トナカイはプレゼントくれないから何も運んでこないよ~?」
三人の少女が口々に発言し、大盛り上がりとなる。
北御門さんも…。
(おみねちゃんわかる?)
(江戸時代に生きてた私にキリシタンの風習なんてわからないわよ!)
「ロマンチックに応えるなら、トナカイは『約束』を運んでくるとか?」
甥子の神尾少年の発言に「おお~」と声が上がり、三人の女子の心を掴んだようだ。
「いいわね、じゃあ『信じる心』とか『純粋な気持ち』とか?」
「確かに道徳的に正解でしょうが、トナカイそのものか?」
「あ~わかった!原さんたらイジワル問題を!トナカイはソリを引くから『サンタを運んで来る』でしょう?」
少年少女も「そっかぁ」と言って談笑のままお開きとなり、余は
「なるほど、流石バラム。答えは『簡単』だったな。」
「ありがとうございます、佐田様。」
**
その日の夜。
余は枕元に靴下を吊るして眠る事にした。
童心ではない。
天界は「手続き」にこだわるからだ。
日付が変わった途端、シャンシャンシャンとの音と共に、それはやってきた。ミカエルとルシファーの二人は、トナカイが引くソリに乗り現れた!
二人かがりで大きな袋から取り出した「サタンへのプレゼント」は勿論、
「ただいま星明。遅くなってごめんね。」
「お帰り、待ってましたよ、奈々子。」
「一年ぶりの再会のプレゼントが『呼び捨て』だなんて、お姉さんの心をくすぐるじゃないの♪嬉しいよ、星明。
ずっと会いたかった…。」
「私もです…。」
そう、クリスマスイヴの夜、トナカイは『簡単』を運んでくるのだ。
理由もなく制約もなく、信ずる者だけに現れる。トナカイは事をシンプルに運ぶのだ。
貴方にメリークリスマス。
終