「さぁ、南部さん。この部屋だよ。」
「あ、あのホテルで取材とは、会議室や事務室を使用するのではないのですか?
ここは…。」
「あぁ、僕が個人的に寝泊まりするのに使ってる部屋さ。出張が多い仕事だからね。」
新聞やサッカー専門誌以外に取材を受けるのは初めてだった為、こんなものだろうか?
と違和感を感じながらも、友人の島がお世話になった大島編集の頼みを無下に断れない南部だった。
「では始めようか。座って。」
「はい…。」
簡単な机と椅子があるだけのホテルの一室で取材は始まった。
大島編集の質問に答えながらも、目の前のベットが気になり、集中出来ない南部だった。
(どうみてもダブルベット…。出張の為の使用ならシングルで十分では?)
「…についてはどう思いますか?」
「あ、あの、すみません、もう一度…。」
「はは、そんなに堅くならなくていいよ。一部が硬くなってるのは僕の方なんだから。」
「じ、自分はプロサッカー選手とはいえ、まだまだ駆け出しです。大島さんこそ緊張する必要はありません。」
「南部さんは本当に優しくてプロの鑑だな。志磨子先生との友情も頷ける。
で、その先生の作品に関してなんですが、率直に今作は今までの作品に比べてどんな印象を受けましたか?」
「は、はい。い、今までの過激な路線を踏襲しながらも、『包囲磁石』は男女の深い愛、信じる気持ちが伝わる作品だったと思います。
特に、和夫さんは魅力的な男性で、艶やかな女性の描写が上手かった島さんの中では、新しいキャラクターだと思います。」
「ストレートな感想をありがとう。
その言葉、是非ともウチの編集長に聞かせてあげたいね~。
実は最初、編集部としては『狂犬カズ』の描写の多さに否定的で、もっと瑠璃子の性遍歴にページを割けって圧力かけてきてさ!僕が突っぱねてやったよ!
『和夫は男性読者からも必ず支持されます、そして女性読者開拓の鍵は和夫です!』って編集会議で啖呵切ってやったよ!」
「『包囲磁石』のヒットは大島さんの熱意あってのことなのですね…。」
「僕を見直した?」
「み、見直すも何も最初から自分は…。」
「それは光栄だ。次の質問。南部さんは作中の友子や明美に自分を重ねて読んでいたかい?」
「あ、あの質問の意味が良く…?」
「あぁ、ごめん。はっきり言えば、作品を読みながら和夫に抱かれたことを想像したかい?」
(これも取材?何だか熱い…。)