友子は限界を感じていた。
絶世の美女、瑠璃子として夜の町に君臨しても、彼女は満たされなかった。
勿論、自分を満足させる男に出会えないのも彼女の不満だったが、昼の生活の方が問題だった。
早い話が金欠だ。
元よりハイリスクハイリターンなキャバクラ嬢ということもあるが、男漁りの為に不真面目な勤務態度のツケが回ってきた。
遅刻や欠勤での罰金がかさみ、堂々と客と寝た事を公言する瑠璃子に周囲は冷たかった。
生活の基盤は男の収入をアテにしていたが、破局のサイクルが短くなり、規則違反で次々に店をクビになれば、たちまち財布が底を尽きた。
「仕方ない、次の店から真面目に働くか!」
元来、繊細で気配りのある少女だった。整形前の山根友子は、気弱で怖がりだった。気にしすぎることをいつも幼なじみの田中和夫に守ってもらっていた。
母の遺産を注ぎ込んでまで手に入れた美貌も、和夫が居なくては意味がないと感じだしていた。
「愛されたい」なんておこがましい。
ただもう一度会って謝りたかった。
だが、それは不可能だとわかっていた。
新しい顔と名前は二人の過去を完全に遮断したと思ってたのだから…。
男よりもお金にシフトすることは、マネージャーや先輩キャバ嬢と良好な関係を作ることに成功した。
瑠璃子の過去の遍歴を知らない者は、美人にしては気位が高くない女性として、内外ともに着実な人気が出始めた所なのだが…。
「え~、翔太くんてSなの~?ウソでしょう?イジメられて喜ぶタイプじゃない?」
「違いますよ瑠璃子さん!
こう見えて夜は変貌するタイプのドSなんですよ?」
「ホントに~?ウソは駄目よ~。」
やっと築き始めた信頼関係を壊したくなかったが、友子の「触手」が反応した。
相手は店のボーイ。身内に手を出すのはご法度だが、我慢すればするほど、瑠璃子に友子の時のトラウマが蘇る。
先輩の忠告を無視し、翔太と夜を過ごしたのだが…。
「さぁ、瑠璃子さん!ここからが僕の本領発揮ですよ!」
翔太くんは確かに見かけと真逆の性癖嗜好の持ち主だった。
初体験の緊縛も、全身が真っ赤になるほどの打擲も気絶しそうなくらい感じたが、彼女にアイマスクをしようとした瞬間、瑠璃子は彼を平手打ちして泣き出してしまった。
翌日、瑠璃子が店を辞めるより早く、彼が辞めていた。
「…なんで私なんか生きてるんだろ…? 和夫…。」
遠く離れても、磁石の様に互いを求める二人だった。