7月。
夏の到来は私の心を開放してくれた。
南部ちゃんと過ごした夜は、文字通り私の転機となり、大学の試験に万全の状態で臨めた。
それには講義中の煩わしい人間関係よりも、テストの方が集中出来るという割り切りもあった。
高校と大学は違う。こんな当たり前のことに気付くのが私は遅かった。
そして7月は4月に私が書いた「包囲・磁石」の初回が「月刊・拘束通信」に掲載される月だ。
「志磨子先生、予想以上の反響ですよ!」
喜びを私に伝えてくれる担当の大島さん。
やはり自分の担当する作家のヒットは編集に取って何よりも嬉しいことだろう。
勿論、彼には彼の野心があり、成人雑誌の編集で終わりたくない気持ちはあるだろう。
でも、今は一緒に喜んでくれて私は嬉しい。
「一話から過激なシーンで引き付ける策略は常套と言えば常套だけど、友子という取り立てて美人じゃない女の子が暴行されそうになるシーンに読者は大興奮らしいよ!
それに和夫という、これまた平凡な男の子が、彼女守るシーンは、ただのエロ待ちの読者の心も揺さぶったみたいだよ!」
「そっかぁ、それは素直に嬉しいな。
でも、一話だけなら純愛期待の読者に、整形やキャバやホストが受け入れてくれるかなぁ?
この締め切りから掲載までのラグは作家に取って心臓に悪いわ…。」
「はいはい、つまんないことで悩むなら、手を動かしましょう!
はい、これ!」
と、私の部屋に持ち込んだのは…。
「応募者全員サービスの志磨子先生の直筆サイン入りプラスチック手錠だよ。
読者プレゼントにこんなに殺到したなんて、創刊以来初だよ!
さぁ、テストの合間見てサイン、サイン!」
「え~大島さんのでやっといてよ!
今月の原稿もあるのに!」
「それじゃ『直筆』にならないだろ!
ファンは大切にすること!
じゃ、また来週…っ痛ぅ…。」
「どうしたの?大島さん」
「あぁ、手錠の入った段ボールが重くて…。」
「もう、情けないわね!
たまに力仕事したらこれなんだから!
私は逞しい男が好きよ♪」
「夜は逞しいぞ♪試してみるかい?。」
「嫌よ、あんた早いし!」
「何で俺の彼女の不満を知ってる?」
「あら、当たった?残念ね♪あれ、右手にそんな幅広の時計してたっけ?」
「あぁ、占いでね…。」
私はその時は気にしなかった。
それよりも私は今月号にサイン入り手錠を添えた小包を、南部ちゃんの選手寮へ送付するのに忙しかった。