私の担当の大島さんは、不敵な笑みを浮かべ、私の懇願を了承したフリをした。
その場は治まったが油断はならない。
彼にはただの成人雑誌の編集者で終わりたくない野心を感じたのだ。
私がプロフィールを伏せて小説を掲載するのは、読者を警戒する為もあるが、彼を警戒する意味も含まれている。
プライバシーの切り売り、話題先行のアイドル作家はご免だ。
その大島編集が、南部ちゃんに変な執着を見せないことを願うばかりだ。
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「瑠璃子(るりこ) ちゃん!ホントに可愛いね!
ね、デートしようよ?」
「え~、瑠璃子なんかを誘うなんて、よっぽどお暇なんですか?
嬉しいな♪
瑠璃子はいつでもどフリーですから全然OKですよ~♪」
「ちょ、ちょっと瑠璃子ちゃん!
こっち来て!」
「なんですか、マネージャーぁ~?」
「こ、困るよ瑠璃子ちゃん!
店外デートを堂々とOKしたら!
こういう時は、それとなく断って、上手く『同伴』に持ち込み…。」
「みんな好き勝手にデートしてるじゃないですか?」
「だからそれは…店のルールとして…。」
「もういい、私、辞めます。
勝手にしますから、勝手にしてください!」
「全く!何て子だ!可愛いくてお客様の人気があるから我慢してたが…。」
キャバクラの仕事なんて友子にはどうでも良かった。
全身整形をして手に入れた美貌は、友子を増長させるのに十分過ぎた。
彼女にとって職場は猟場でしかなかった。
二つ返事で自分を抱いてくれる男を漁るだけが目的だったのだから。
店の規律を守る気もなく、嫌気がすれば辞める日々だった。
それでも友子は店からも男からも需要があった。
美しき外観と瑠璃子という仮の名前さえあれば、同じ事を繰り返すのだった。
瑠璃子は求めていた。
自分の事なんか一切気にせず、ただ乱暴に己の性欲だけを満たす男を。
愛情のかけらもなく、恐怖を覚えるほどの激しい行為の時だけ友子は「生きている」と実感するのだった。
それでも自分を売ることは一度もしなかった。あくまで恋愛の範囲で友子の方から、クズ男達に身体を「与える」という優越感が必要だったのだから…。
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「島さん、今日は泊まってもいいですか?」
「わ、私はいいけど南部ちゃん選手寮でしょう?怒られるよ?」
「今日ほど弱々しく、触れれば壊れそうな島さんは見たことがありません。」
「天才忍者は何でもお見通しだね…。
敵わないや…。
ありがとう」