「狐に化かされた」
だって?
馬鹿を言っちゃいけない。
狐は人を化かさない。
「人が狐により真実を知りたがる」
だけだ。
妖狐、くだ狐、九尾の狐。呼び方や種類は数あれど、狐は鬼や河童と違い、崇められながら恐れられた。
「妖(あやかし)」
の文字を頂きながら、稲荷神社に神の使いとして奉られてるのがその例だ。
妖狐族は怪物や低俗な人間に化ける狸とは違う…。
妖狐の狐火は対象者の最も深くて暗くて重い闇を「照らす」だけさ。
現代風に安っぽい表現をするならば、妖狐は幻術使いではなく、
「トラウマ使い」
さ…。
俺に両方の手首を握られても抵抗を止めず、激しく首を振る鳳明日香。
嫌がる態度を示しながらも、まだ声は出さない。
「…ペンとスケッチブックがあれば『早く皆さんを正気に戻してください』とでも書きそうだな…。」
コクコクと俺の言葉に素早く頷き、下から上に睨み付ける。
「邪魔しちゃ悪いぜ(笑)。
これは全員が望んだ『もう一つの未来・If ストーリー』さ。」
不思議そうに首を傾げる鳳明日香。
彼女だけはその理由がわからない。
わからないからこそ俺はこの合コンに参加した。
最初から彼女だけを狙う為に。
「心の傷の深さは時に人を大きく成長させる。
『糧』とか『バネ』なんて外野が言うのは簡単だが、未来は常に分岐して、成功を収めた者ほど『エンディングパターンB』を心の奥底に眠らせてるものだよ。
『あの人と別れていなければ』
『あの人にああ言っておけば』
『あの時あんな事さえ起きなければ、私はきっとあの人と』
なんてな…。
そしてみんな今頃は
『今までが夢や幻で漸く現実に戻った』
なんて自ら狐火を求めるのさ。
なぁに、みんなには恨みはない。
時間稼ぎが終わったら戻してやるから安心しな。
そうさ、時間稼ぎさ…。『不死鳥』の明日香さん!
さぁ、早く声を出しな!
俺は知ってんだぜ!
『フェネクスの醜い声を聞き、耐え忍んだ者には幸福をもたらす』
ってな!神の使いとして崇められた妖狐の俺にも欲しい物がある!
それは不死鳥のあんただ!
さぁ鳴け!
俺の前で泣いてみろ!
その醜い声を聞かせろ!
俺は耐え抜いてみせる『不老不死』になれるなら!」
手首を握る力を強め、彼女の首筋に何度も激しくキスをする。
悪く思うな。不死鳥は有史以来、生き物を虜にしてきた…
。
「ギィ…!ウギィ!」
来た!これだ