「いやいや、虎徹に限って妖刀化するなんてあり得ませんよ!村正じゃあるまいし!
いや、村正が妖刀化したってのもただの逸話で、大阪の陣で家康を苦しめた幸村が持ってたのが村正だから…。って、宇都宮先輩、すみません…!」
話に熱中し過ぎたことに漸く気付いた青年警官。
虎徹の歴史を知っているから、と宇都宮真樹刑事こと大天使ウリエル姉さんの助手に抜擢されたのだが…。
「いいのよ、近藤くんの歴史好きはみんな知ってるから。
で、虎徹が妖刀じゃなかったらどんな刀なの?
続けなさいよ。」
姉さんは本当なら興味ない話なのだろうが、職務上仕方なく聞いてる感じだ。
この近藤優(こんどうゆう)という青年警官の扱いに慣れた感じなのは付き合いの長さからなのだろう。
「長曾根虎徹という刀匠は、元は鎧兜を作るのが専門でした。
それ故に刀身は短めで小振りでも、甲冑を知り尽くした者が作ったので、とても手に馴染んで実戦でこそ力を発揮する刀なんです!」
「それは素晴らしい名刀ですね。
妖刀とは縁遠そうだ。」
余は素直に簡単した。
西洋文化で生きてきた余にとって東洋の、いや日本の物作りの歴史には頭が下がる。
八百万の神など原始的なシャーマニズムと侮蔑する者の方がどれほど原始的であろうか…。
「でも、虎徹が妖刀として逸話にならないのは、ネガティブな話がつきまとうからなんです…。」
「ネガティブ?」
「そうなんです!刀剣商の間では有名な『虎徹を見たら偽物と思え』って合言葉があるくらいなんですよ!」
確かに有名な刀になればそれだけ偽物も出回るだろう。
だが何故、虎徹に限って?
「理由は大きく二つ。甲冑匠の長曾根虎徹は50を過ぎてから刀匠に転身したので、本物が少ないということ。
そして長曾根虎徹は自分の刀に『虎徹』の銘を彫らなかったのです!
『虎徹』って書いてない方が本物で、書いてたら偽物なんですよ!」
「何それ、面白~い!
ねぇ、星明。あんたの店に売りに来たのは名前彫ってたの?」
「アジアン雑貨ティンブーに原宗時が持ち込んだ虎徹には…はい、確かに『虎徹』と彫っていました。
で、過去に凶器として使われた虎徹は?
実況検分の写真があるんだろう?」
「宇都宮先輩…。」
「近藤くん、私の弟はこの手の世界に慣れてるから捜査協力してもらってるんだから。君もユーレイ課の一員なら細かいこと気にしないの!『犯行途中の時だけ銘が消えた』と証言してるわ」