相手チームの捕手の負傷に対して、自分が受けたいとまで申し出た千石。
「強がりを言うなよ、ピッチャーの成長にとってキャッチャーの存在がどれだけ大事かわからないわけではないだろう?」
高坂漣は次の投手に同じ一年生の三好秋彦を指名し、主将の坂口も了承した。
「ええ、その言葉を…秋彦に…、次に投げる16番に言ってやってください。
僕は秋彦の球を受けるキャッチャーです。
投手として天下の徳川実業の正捕手様から高く評価されたことは光栄です。
しかし、僕はそれ以上の評価を得れるキャッチャーでありたい。いや、その評価に値する秋彦とのバッテリーでありたい。」
高坂は捕手のプロテクターを着け終え、秋彦の投球練習が始まる。
「え~、せっかく投げる高坂くんが観れてたのに~。」
「キャッチャーマスクを被ったら顔が見えないよ~。」
「そうよ、三好くんが受けたらいいのに!」
「バカね、三好くん左投げだからキャッチャーは無理でしょ!」
「そっかぁ、葉子詳しいね。
でもさ、顔が隠れてるから、マスク飛ばして送球する仕草カッコ良くない?
あれ、テレビで観るといいよね~?」

(参考画像、元阪神タイガース矢野捕手)
「麻美の言うのわかる~。隠されたイケメンが見えた時のレア感がいいのよね~。
あっ、それにあたし、プロテクター姿の高坂くんも好きかも~。」
「ホントだ~。コミケのコスプレ男子の比じゃないわね。」
(フフッ、結局イケメンなら何でもいいみたいね。)
と、三好真理亜は隣のファンクラブ女子の中身のない会話に苦笑しながら、遂にマウンドに登った弟の投球練習を食い入るように見ていた。
(そうよ、貴方はそのサウスポーを誇りに思えばいいのよ…。
私や父さんとは違う、母譲りの左利きを…。
貴方にとって柔術は、父への隷属であり、私のモノマネだった…。
でも野球はそうじゃないことを証明してよ…。
高坂くん、秋彦をどうかお願いします…。)
高坂を降板させてまでどんな投手が来るのか?
両軍ベンチとギャラリーが投球練習に注目する。
小柄な左腕から繰り出される球は、極端なサイドスロー

(参考画像、元阪神タイガース田村投手)
からのスライダーとストレートだった。