五回表
二死二塁。
徳川実業5-2北条学園
徳川実業の四番捕手千石を前に、途中交代で登板した高坂漣は、淡々と投球練習をした。
「ズバーン。」
「バスーン。」
速球を投げ込む度に、両軍ベンチが静かになっていく。
野球に関しては素人のファンクラブの女子達や、聖バーバラの女子も、高坂のルックスではなく、投球そのものを見はじめた。
「ねぇ、ピッチャーの球って、こんなに速かったけ?」
「私に聞かないでよ!
でも立花先輩や、徳川の牧野さんより迫力あるのくらい私にだってわかるわよ…。」
7球の投球練習を終え、文字通り「黙らせた」高坂。
打席に入るのが四番で捕手の千石でなかったら、完全に飲まれていただろう。
「おいおい、何、お通夜みたいにシケてんだよ!
このライトの強肩は証明済みだろ?
エースが打たれたら、肩のいい奴からマウンドに上がるなんて、リトルリーグの発想だな?
強肩とピッチャーの投球は違うってことを、俺がわからせてやるよ!」
大きく足を上げる独特のフォームの高坂。
そのゆったり過ぎるフォームは簡単に三盗を許したが、彼の一投目はそれ以上のインパクトを残した。
アウトローぎりぎりのストライク。
ランナーが走ったならば、打者の千石は空振りをして捕手の送球を邪魔しないといけないのだが、それさえも忘れるくらい、手が出ないほどだった。
「い、いきなりアウトローいっぱい?
狙って投げてるのか?
いや、偶然だ…偶然に違いない…。」
二球目。
今度は顔近くのインハイ。
高目の球は更に伸びが良く完全に振り遅れてツーストライク。
「早いだけじゃない。
手元で伸びてきてる…。
スピードガンの表示以上に早く感じるタイプだな…。
だが…。」
三球目はインロー膝元にボール。
決め球の四球目はアウトハイのつり球だったが、ギリギリ当ててファールにした。
「やはり…。」
(ほう、流石は徳川実業の四番。
こんなに早く当ててくるとは流石ですね…。)
(今ので打ち取れなかったのは不運だったな。
やはり典型的な外野投げは、ただ速いだけで、振り遅れずにバットを短くミートに徹すれば、金属バットの反発力で軽くオーバーフェンスだぜ!)
五球目はインローにストライク球。
待ってましたとばかりにジャストミートした千石だったが…。
「速いだけじゃねぇ、重い!」
ボテボテのピッチャーゴロは高坂からファーストの秋彦に渡りスリーアウト。