4回裏。
何とか後続を断ち切っても、三点の差は北条学園に重くのしかかった。
せっかくのクリーンアップの三番からの攻撃だが、援護を貰い気を良くした徳川実業の投手牧野の前に完全に沈黙した。
「ふん、やはりあのメガネ野郎の右翼手以外は雑魚だな!」
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五回表。
勢いに乗る徳川実業は打順良く一番から。
エース立花は粘りを見せ、一、二番を打ち取ったが、三番に二塁打を許した所で明らかに疲労困憊だった。
試合は今でまだ半分。早い降板だが、反撃を諦めない為には流れを変える必要があった。
「立花、お前はよくやったぜ。
徳川実業にこれだけ投げれたら、大収穫だぜ。」
捕手は投手立花の頑張りを讃えるが、途中交代を喜ぶ先発投手はいない。
悔しさを隠しながらも後続のピッチャーに後を託した。
グラブを叩きつけたのはベンチに下がってからだった。
立花はエースらしく、次に登板する投手にボールを手渡し、リラックスさせ、相手打線のクセを軽く伝えてからマウンドを去った。
本当は最後まで投げたかっただろうが。
「…逆転には三点が限度ですね…。
僕はもう一点もやりませんよ…!」
マウンドに上がったのは赤いフレームのメガネをかけた背番号9。
そう、攻守に渡ってチームを支えているライトの高坂漣がピッチャーを任された。
「キャ~!高坂くんが投げるの~?
嬉しい~!最高~!」
ライトフェンス越しに陣取るファンクラブは、投球練習する高坂を見て狂喜乱舞する。
しかし、聖バーバラの真理亜と五月は、投手の立花に代わってファーストの守備に着いた三好秋彦の姿に喜んだ。
そして先ほどまでファーストを守ってた選手がライトを守った。
「お~、真理亜、良かったじゃない!
弟くん、けっこう早目に出れたね!」
「ありがとう、五月。これも五月と弥生のおかげ。それと高坂くんの活躍のおかげね。
秋彦~!お姉ちゃんがついてるわ~!
死ぬ気で頑張りなさ~い!」
三好真理亜がこの試合初めて大きな声で応援した。
顔立ちも均整の取れたスタイルも、誰よりも大人びた三好真理亜が応援する姿に、ファンクラブの女子も、両軍選手もざわめきだった。
「何だ~。三好くんのお姉さんだったんだ~。
誰よ、高坂くんの彼女って言ったのは~?」
高坂がマウンドに上がったことと、三好真理亜が高坂の彼女でないと判明し、ファンクラブの女子のテンションはマックスだった。三好秋彦を慕う朝倉柚子葉を除いては