ゼパルと俺の計画は完璧だったはずだ。
あずさには俺のアパートという空間を与えて落ち着かせる。
そして一樹と形の上でも本気で付き合い、時期を見てあずさと縁を切るはずだった。「息子の彼氏」を邪険に扱えず、また秘密を知る一樹を取り込む事で「清算」を迎えるはずだった!
そしてその後一樹を捨てても、「自由恋愛」で片付けるつもりだったのに!
唯一の誤算は、あずさの旦那にして、この一樹の父親だ!
「妻が理由も告げずに朝から外出したので、仕事を早退してみたら…。
貴様、私の大切な息子に何をする!」
「ガシャン!」
有無を言わさない力任せの鉄拳!
俺は壁まで吹っ飛び、口を中を切った。
「父さん、違うんだ!これは…。」
「一樹、怖かったろう。
ウチの息子に二度と近づくな!変質者め!」
腹に一発、更に顔に二発入れられ、襟首を掴まれ玄関まで追いやられた。
「先生!父さん、もうやめて!」
「一樹、すまない。私と母さんがこんな家庭教師なんかを雇ったが為に…。
さぁ、出て行け!警察沙汰にされないだけでも有り難いと思え!お前の将来までは保証出来んがな!」
(どういう事だ、ゼパル?この父親は家庭に無関心な父親じゃなかったのか?)
(…これは決定的だね、道長。
あの奥さんもこの事実を突き付けられてまで君と関係を続けようとは思わないだろうね。)
(まさかゼパル、全てお前が…?)
(何の事?僕は第三者同士の恋愛を成就させることが出来る悪魔だよ。
それがどんなに冷えきった夫婦間だろうともね…。
でも、君はそんなに落ち込む必要はない。ここで君がまだ生きているのは僕にも意外だったよ♪上質の魂をゲット出来ると思ったのにね!
それだけ曲がりなりにも他人の為に尽力した君の『徳』はなかなかのものだったよ。
これにてミッション終了。
毎度ありがとうございました。
私はあくまで奥様との縁切りの契約をしただけですので。)
消えゆくゼパルに対して俺は最後の質問をした。
(彼らは今後も大丈夫か?)
(それは保証出来ないが、道長が望んだ範囲の『家庭円満』だ。)
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あずさは息子を本気で心配する旦那に文字通り『惚れ直した』。どこまでゼパルが「術」を使ったかわからないが…。
塞ぎがちな一樹くんも少しずつ家族や友達に心を開き出したそうだ。
卒業も内定もフイにした俺は暫く田舎で頭を冷やすことにした。
「待ってます。」との高野さんを信じて。終