水曜日の正午。
旦那は仕事で息子は学校。
真壁あずさは平気で息子の家庭教師である畠山道長を自宅に呼び出した。
彼の大学での予定を把握しているのだろう。
喫茶ロビンフッド内は亜空間というか超次元に存在から携帯電話は圏外になる。
店から出た途端に蓄積されていたメールが一気に彼の元に送信されたようだ。
それで躊躇なく赴く彼も問題なんだろうが、とにかく会わないと進展はしないし、僕も能力を発揮出来ない。
「…本当に今まで通り接するだけでいいんだな?」
道中で彼は姿を消した僕に尋ねた。
勿論、本当に消えたわけじゃなく、認識阻害の魔術が効いているだけで、彼以外には見えないし、声も聞こえないだけだ。
「うん、まずは作戦の第一段階。
彼女に『不感症』の術をかける。
快楽に溺れた女性なら、これだけで君と密会する意義を見出だせなくなり、彼女の方から別れを切り出して一件落着さ♪」
複雑そうな表情で彼が返答する。
「何か…それって自分の存在価値を見失いそうになる作戦だな…。」
「人のモノに手を出してる男が価値とか言う資格ないよ!君は少し自己嫌悪になるくらいで丁度いい!」
「…そうだな…。」
****
閑静な住宅街の一軒家。
優しい笑顔で彼を出迎えた彼女はごく普通の…いや、何の問題もない女性ではあるが、その飾らない落ち着いた雰囲気ながらも、年不相応な幼い笑顔は普通以上に美しかった。
「なるほど…これは彼女の方から迫られたら、断り切れないのが健全な青年でしょうか?但し、それは一度切りなら…。
二回目以降は確信犯だよね。」
(痛いこと言うより、早く術を!)
(わかってる。あぁ、僕の声は聞こえてなくても、君が話しかけると怪しまれるから適当に聞き流しといて)
(わかった。)
「どうしたの?何かあった?」
「いや、何でもないよ。」
「お昼ご飯は?メールの返信が無かったから取りあえず用意してあるわよ。」
「いや、いい。それより早く…。」
「うん♪わかってるわ…私だって…。」
彼は僕の能力を期待してたからでしょうか?
それとも彼女と会う時はこうなのでしょうか?
自死だの魂を奪ってくれだのと言う割りに彼も積極的に彼女を求めているように見えます。
そしてほどなく真っ昼間から行為は始まり…。
(うん、出番か。『真壁あずさよ、ゼパルの名のもとに汝の快楽を封印する』
さあて、これだけで解決するといいけどね…。)
続