12月30日 朝
それは本能でした。
彼は私の中迄入ってきて、私の衝動を突き動かしてくれました。
この女の幸せの持続と、本当に魂が消えてしまうかもという不安から、朝が来てほしくない、永遠にこの営みが続いてほしいと思ったけど…。
朝は来ました。
隣で眠る「総統閣下様」の可愛いこと…。
私は今朝も私に変わりなかった…。
「起きろ、星明。」
彼の温もりを直に感じ、可能な限り肌の接触面を広げる。
いじわるに体重をかけて口唇を重ねると、ようやく彼は目を覚ました。
「おはようございます、奈々子さん。
いつから起きてたのですか?」
私より寝過ごしたことを気遣う彼。
魔界で自分の配下に対しても彼はきっとこんな態度なのだろう。
直ぐに起きて朝ご飯を作ろうとしてくれたみたいだけど…。
「いいよ、星明は寝ててよ。
今日一日はしっかりデートに付き合ってもらうから、今のうちにしっかり休んでて♪
そして明日はASMOちゃんのライヴに行こうね。
そして年が明けたら…。」
「ええ、アガレスが自らの分身のウォサゴを復活させるのには三日はかかります。
天上界へ乗り込むのは新年からで十分でしょう。」
「朝起きたらルシファーになってなくて良かったわ。」
「ルシファーが『悪魔』ならば、召喚されない限り人間界では実体化出来ませんよ。」
「そっか、まぁいいや。
ねぇ、あのワインレッドのシャツ着てよ!」
****
同時刻 天界。
「随分…手の込んだことしてくれるじゃない、アガレス?
妹ウリエルへの蛮行…。覚悟は出来てるんでしょうね?」
「ガブリエルよ、覚悟だと?お前に何が出来る?正式な手続きを踏まずに俺に手出しして見ろ!
お前はアビス(奈落)に堕ちるぞ!
俺には裁判を受ける権利がある!
天界の中の監獄とは、これ以上ない堅固な城だなぁ?」
「…下種…!」
「ウリエルがくたばればその魂は俺が毎晩相手してやるよ!
能書きに縛られた偉いさん方は、囚人一人殺せないんだからなぁ!」
「…アビス(奈落)がなんだって言うのよ?殺してやる!覚悟なさい!」
「は~い、そこまでよん♪ガブリエル~。堕天したら、聖母を信仰する人間が悲しむわ。
私に任せて♪」
「ベルゼバブ?どうして?」
「私は『大食』の罪を刈り取っただけよ♪悪魔の責任は悪魔がね♪」
鉄格子のすき間から右の手刀を一閃、地下牢には「嘘つきの悪魔」アガレスの首が転がった。