「…来て…。」
覚悟はしたのに、結ばれて一つになるのは困難を極めました。
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最初から一つの目的に真っ直ぐな佐田くんを何よりも私は信じていたし、卑劣な悪魔も許せないし、杓子定規に決まりだけを遵守する神様はもっと許せなかった。
なのに…。
「やっぱり駄目です奈々子さん!
魔界の権力争いに端を発することに、人間の貴女を犠牲にすることは…。」
ギリギリの所で口唇を奪ってくれなかった佐田くん。
その表情は、バイト先で時々遠くを見つめていた彼そのものだった。
「何言ってるの?もう悪魔同士だけの問題じゃないでしょう?
ウリエルさんは重傷を負ったし、久美子だって危険だったんだよ。
だからこのままじゃ…。」
「わかっています!ですが、『落合奈々子』さんとして生を受けた魂を私が奪うなどと、貴女のご両親に申し訳ありません!」
アパートの壁を叩き、肩を震わせ、ついに悔し涙を流し出した。
男兄弟も男友達も少ない私には言い切れないが、『漢』が泣くには十分な理由と思った。
「大魔王総統閣下」として非情な決断が出来ないサタン様が私にはどんな人間よりも愛おしく、だからこそ彼に委ねたかった。
詩的に言うなら悪魔に魅入られたかったのだ。
だからこそ人間の私の方から『悪魔に魂を売った』ような駆け引きをしてしまった。
「じゃあ…貴方のご両親はどうなるの?
親だったら息子に夢を叶えてほしいと思うんじゃない?」
今から思えば男女の伽の交渉に、お互いが「親」の話を持ち出すなんて、男性のアレを一気に弱らせるんじゃないの?って思うけど、この時点では寧ろ私の方が必死でした。
「今さら感」なんて言わないでよ!
普段の私はこんなんじゃありません。
あくまで魔が差しただけなんだからね!
「…そうです。ロストファイブが暗躍しなくても、私は北極でトナカイにされた9天使を、私を創造した『親』である天使達を開放する為に、ヤハウェの首が…。だから奈々子さんの魂を求めて人間界を訪れた。
そして…ミカエル殿の気持ちも叶えてあげたい…。」
「…ほらね…落合奈々子はこうなる運命だったのよ。
それにね、私、これで永遠の終わりなんて思ってないよ?」
「…へ…?」
今までの勢いが吹っ飛ぶような間の抜けた佐田くんの顔。
ホントに予想外だったみたい。
「最後に勝てばいいのよ!
『万能』のヤハウェなら、私の魂を再び戻すくらい簡単でしょう?あくまで魂を『預ける』だけよ♪」