12月29日 夜
佐田星明のアパート
「お邪魔しま~す。うわぁ、けっこう綺麗にしてあるんだね。」
「散らかるほど、人間界の物を集めようとは思わなかったものでして…。」
「佐田くん…。
私は私に出来ることをするわ…、だから…。」
「奈々子さん…。」
憧れ、好奇心、恋心、愛欲、正義感。
どんな言葉を並べても、その時の私の心情を的確に表現出来ないだろう。
…ただ…敢えて言うなら『義侠心』かもしれない。
「…本当に良いのですか?」
「佐田くんたら、帰り道からずっとそればかりね♪
…いいよ…。」
狭いアパートに着いても、灯かりも点けない。
カーテンを閉めてない窓からの月灯かりだけを頼りに、荷物を置き、上着を脱ぐ。
皮ジャン脱いだ彼の上半身の逞しさに、改めて胸が高鳴る私が居る。
覚悟は出来てるわ…。
でも…。
「佐田くん…。最後に一つだけ教えて。
どうして、赤羽根さん、ううん、ミカエルさんのことを私に言わなかったの?」
今言うべきでないことはわかってる。
これで彼の決心が揺らぐかもしれない。
でも…。
「何故そのことを?ラファエル姉さんはいつも余計なことを…。」
「違うわ!佐田くんがレラジェさんやバティンさんと話してる間に、里見さんと色々話したけど、私は私で何となくわかったの。」
「…ミカエル殿は、ウリエル姉さんがあんな目に遭っても、人間・マイク赤羽根として配達業務を真面目にやり通してるような男ですから…。」
「私のことも彼に伝えてないんでしょう?」
「ミカエル殿は誰よりもルシファーを愛しているから…。
それを知ることで奈々子さんに傷ついて欲しくなかったから…。」
「ば、馬鹿ね!そんなの君が心配することないじゃない!それに私は、身の回りに起きる奇跡体験に、赤羽根さんを重ねてただけで…。」
少し俯き気味に悔しそうに口唇を拗ねたように尖らせる彼。
それ紳士というより、玩具を取られることを心配する子供か、母親が自分よりも自分の友達に優しくするのを怒るような姿だった。
「可愛い…。」
世界一有名な『恐怖の象徴』が目の前に居る。
そして私はその大魔王サタン様に身も心も捧げる決心をした。
この部分だけ聞けば、いかがわしい儀式の果てに祭壇に奉られる『生け贄』と勘違いされそうね♪
でも違うの。
私達は今から一つになる。
付き合うと決めたその日になんて…あくまで魔が差しただけなんだからね!続