12月28日 夜
アスモデウスとパイモンの小競り合いは夜まで続いたが、ミカエル殿との待ち合わせに遅れるわけにはいかず、余はバティンに乗って、いつもの店に着いた。
12月のハーレーダビッソンは極寒を極めるが、それが魔界の伊達男、瞬速のバティンの拘りならば、余が咎める理由はない。ダウンの下にセーターを着ればいいだけのこと(この服も少ないバイト代を貯めて買ったのだ!)
「お前も食べていかんのか?懐具合は気にするな。」
「いえ、私は奈々子様と久美子様の監視及び護衛がありますので。」
「そうか…律義なお前は今の余には勿体無い部下だ…。」
「…その言葉こそ勿体無く存じます。
これがバティンの使命ですから…。
婦女子同士の仲裁に長けたベルフェゴール様ほどではありませんから…。では!」
ハーレーダビッソンのまま返事をするバティンは、余に別れの挨拶をすると同時に、夜目が効く梟(フクロウ)に姿を変え飛んで行った。
駐車場にはミカエル殿のトラックが既に停車しており、急いで店に入る。
「遅くなってすまぬ、ミカエ…いや、赤羽根殿。」
「私も今来た所ですよ。」
大天使ミカエル殿と会う理由は勿論、お互いの情報交換だ。
天界と魔界の代表が人間界で人間に化けて近所のラーメン屋で首脳会談とは…黙示録戦争は近いな…。
「ミカエル殿、どれだけ持って来た?」
「大丈夫ですよ!ここの支払いは私が。」
「勘定の心配ではない!
天界の捜査の範囲のほどはどれだけだ?と聞いている!」
「この会合は捜査の範囲ですから、天界の経費で落ちます。
なんせ、今の私は最高位の織天使(セラフ)ですから。」
「余の右腕を切り落として、アビス(奈落)まで突き落としてくれた手柄で出世して、それはそれはおめでとうございます!織天使様!」
「昔話に華を咲かせたい気持ちはわかりますが、手短にいきましょう。
獄中のアガレスが吐きました。」
「アガレスが?ウォレフォルの裁判で証言したのか?」
「はい、公判前に、ガブリエルが真実を言わせるように『説得』を…。」
「姉様は相変わらず無茶を…。囚人虐待で告訴されるぞ…。」
「一連の首謀者は、ソロモンNo.3『簡易召喚の悪魔』ウォサゴだと。」
「ネットと『簡易召喚』か…久美子殿も他の被害者も、恐らく興味本意か…?納得だな…。」
「明日、警視庁の宇都宮ことウリエルが、人間化した奴のマンションに踏み込みます。」