駄目だ…。
あと少しで全部のピースが揃いそうなのに…わからない。
魔術には素人の、久美子殿やひったくり犯達が召喚に成功する時点でおかしい。
反転契約は召喚後の契約内容を偽る詐欺行為であり、悪魔側に騙す意図があっても、まずは召喚に成功しなければ…。
「フフフ、ストイックに考え込んでる横顔だけはホントにいい男だよ♪」
「やめてください、奈々子ど…。いや、すみません!落合さん…。」
思わずいつものクセで本人を前に名前で…。
ええい、これでは益々印象が…。
「いいのよ、表情がコロコロ変わる佐田くんを見れるなんてレアなのかな?
夕方に買いにくる女子高生が羨ましがるわね。
まぁ、店長もそれを見込んでの佐田くんのネットデビューを期待してるんだろうけど。」
…店の客の幾人かが、客以上の感情を抱いて来店しているのは知ってる。
それは、スポーツジムの会員の男性が、インストラクターの久美子殿をしつこく食事に誘う姿と同じだ…。
だが、この店には失礼ながら久美子殿を、そのような目当てで来店する客は皆無だ。
やはり久美子殿が奈々子殿に嫉妬するなど、ガミジンの虚言か言い間違いか?
ラヴホテルで久美子殿が奈々子殿に変身したのは、憑依したガミジンの意志か?
「ネットのコメントのやり取りは奈々ちゃんで呼ばれてるから違和感ないのよね~。
でも、リアル年下はせめて『奈々子さん』止まりね。
年上にぶっきらぼうに『奈々子!』って呼ばれるのが理想だけど…。」
「ブル~ン」
こ、このエンジン音は…。
いつもいつもタイミングの悪い輩は…。
「あっ、噂をすれば赤羽根さんのトラックだわ!
じゃ、佐田くん後でね~。」
噂?奈々子殿に取っての「理想の年上」はやはりミカエル殿か?
ええいベルゼバブめ!何故、余の肉体を30歳ではなく、22歳にしたぁ?
お前の美少年趣味で余は…。
だが、もう遅い…。
「…お疲れさまです、赤羽根さん。」
精一杯の悪態で挨拶したつもりだが…。
「サタン殿、中津川久美子さんは、ラファエルこと里見愛が完全看護と護衛をしています。
反転契約の捜査はウリエルこと宇都宮真樹が進めてますが、死亡したひったくり犯との繋がりは皆無です。」
ミカエル殿の態度は相変わらず実直だ。
「あの、赤羽根さん…以前お話した大晦日の夜…。」
「落合さん、初詣のお誘いありがとうございます。
喜んで皆様とご一緒したいです。」
承諾するんかい!(涙)