12月27日 昼
「それでは休憩に入ります。」
バティンに強引に送られて、遅刻は免れたが、奈々子殿に対して心苦しい気持ちは変わらない。
午前中は商品陳列で紛らわせられたが、休憩後はレジなので逃げ場がない…。
覚悟を決めるしかない。
そもそも余は自身に対しての罪の意識はあっても、奈々子殿個人にやましいことはないはずだ。
寧ろ後ろぐらいのは…余の計画が実現し、奈々子殿の魂が消えることだ…。
「父様、母様、私は間違っているのでしょうか?
『神曲』には神への反逆罪はコキュートスという氷地獄へ送られるとありました。
トナカイとして終わらない労働を繰り返すはコキュートス以上の地獄のはず…。
必ず私がエデンの地へ…!
その為には…たとえ奈々子殿の魂を…!
「コンコン!」
「佐田くん、入るわよ!」
事務所兼、休憩室に入ってきた奈々子殿。
表情はいつもと変わらない。
「ねぇ、佐田くん。
正直に言って。
私に何か隠し事してない?」
「…昨日の落合さんのお返事に対して、私が『ショックを受けていない』という気持ちを隠すのに苦労していますが…?」
事実と虚勢が半々だ…。久美子殿のことをこちらから言わない方がよかろう…。
「本当にそれだけ?
それが本当なら佐田くんはどれだけ自由な人生歩んで来たのかなぁ?
年上からの忠告だけど、私は傷ひとつないことを誇りにする男よりも、傷だらけな自分を普通に受け止められる男の方が好きよ。」
「落合さん、それは…?」
「『変えちゃいけない』って思い込んでるのって、けっこう自分だけだったりするんだよね…。
ブレーキ掛けてるのは自分自身だったり…。」
「…それだけを言いに?」
「ち、違うわよ!店長に佐田くんが許可してくれるか聞いて来てって。」
「許可?」
「そう。店長の趣味で店(アジアン雑貨ティンブー)のホームページ作ってるんだけど、新年初の更新は、佐田くんを顔出しでババーンと特集したいんだってさ?
勿論、プライバシーの問題もあるから、考えといてね。」
…近年のインターネットの普及は驚かされる…。
「私も最初はノリ気じゃなかったんだけど、今ではけっこう私目当てのファンもネットには多いよ!ネットにはね。」
社交的な久美子殿は、普段地味な奈々子殿の人気に嫉妬していたと、ガミジンは矛盾した言葉を残した。
そして久美子殿やひったくり犯が悪魔の存在を知り、召喚に成功したのはまさか…?