ヤハウェは真っ暗闇のなかで「光あれ」と叫んだ。
第1日目、昼と夜の誕生である。
(創世記第一章)
****
世界一のベストセラー「旧約聖書」には真実が書かれてあった。
ヤハウェは闇の中で光を生み出した。
人間界全てをヤハウェが創造した様に書かれているが、ヤハウェは「闇」だけは生み出していない。
その眷属である悪魔の余が「祝福」されないのは当然か…。
ヤハウェなんぞが創り出した人間に、余は微塵の価値も見出だせぬと思っていた。
ルシファーの魂を受け継ぐ者に選ばれた奈々子殿は、光栄な人間だと決めつけていた。
後に天上界での暮らしが待っていて、天使も悪魔も、多神教の神々もひれ伏すなら、人間には過分な幸福だと思い込んでいた。
だが!例えエデンの中心で女王として君臨しようとも、落合奈々子としての「心」が消滅してしまっては何の価値もないではないか!
八方塞がりだ…。
追い討ちをかける様に奈々子殿は人間化したミカエル殿に惹かれつつある…。
ミカエル殿が人間化したマイク赤羽根と、奈々子殿との仲が深まることは、余やルシファーだけでなく、ルシファーを愛するミカエル殿自身に取っても、天使と人間の違いがある奈々子殿に取っても悲劇なだけだ!
だが…そもそも余に奈々子殿の色恋を詮索出来る権利があるのか?
余の行動原理が、ヤハウェによってトナカイにされた生みの親9天使を解放することのみならば…余が「闇」そのものだ…。
****
「いつも以上に近づき難いオーラね、佐田くん。」
「『考え過ぎた時は身体を動かせ』と思いましたので…。」
久美子殿のスポーツジムで汗を流す。
日本文化の滝に打たれたい心境に喩えるほど余は善良ではない。
人間の罪に堕ちたいだけである。
「…女ってさ、突然の不幸に八つ当たりするクセに、突然の幸福を素直に受け入れられない、ホントにどうしたいんだろうね…。
ねぇ、佐田くんさえ良かったら、私と違う場所でもっと汗流さない?」
その時の余を釈明するなら、久美子殿から人間という者をもっと知りたい一心だった。
「久美子さん、ここは?」
「ちょ、説明させないでよ(笑)、『大人の遊園地』に決まってるじゃない?」
「…こんな私とですか…?」
「佐田くん、何を思い詰めてるかわかんないけど、人間は完璧じゃないから、貴方だって時には過ちを犯すわ。
ただ…それが貴方に取って、今で、相手が私なだけよ。
私を奈々子だと思って…。」