仮住いのアパートは、アジアン雑貨ティンブーのバイト代から計算すると、高過ぎず、安過ぎない家賃のはずだ。
ベルゼバブはメディアで人気のダイエットインストラクター。
アスモデウスは世界中で大人気のアイドル歌手。
それぞれ人間界で大成功を収めているが、余は安い時給のアルバイト店員。
いくら奈々子殿との恋を実らせる為とはいえ、日本の冬は何故か心に響く。
2552年前にバビロニアに加担した時の、中東の寒さとは一味違う…。
「マモン爺！アパートの家賃くらい、経費の範囲だろう！？」
アパートに接続された、固定電話の受話器を握る手に力が入る。
人間・佐田星明になってからは、イライラが募る日が多い。
「憤怒」のサタンが怒りの罪に堕ちれば天界、魔界の笑い者だ…。
「サタン様、『欲しがりません、勝つまでは』の精神でございます。」
と、電話口からマモン爺の声が返って来たかと思えば、パソコンを開くと、ベルフェゴールから
「勤労は美徳なり」
とメールが入っている。
日本文化に造詣が深い部下を持って余は幸せものだなぁ！
「時にマモン爺…。
ものは相談だが『すまほ』というやつは…。」
「アパートの契約金と、家具、魔界と人間界を繋ぐ電話回線とパソコンと『いんたーねっと』。
サタン様を人間界に送り出す為には経費がかかっております。
『すまほ』のご購入はサタン様のご自由ですが、お店のご給金では…。」
「わかっておる！だから相談しておるのだろう！」
※マモンは「強欲」を司る魔王で、ベルフェゴールは「怠惰」を司る魔王です。
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「サタン様～！お久しぶりですぅ。
お元気にしてましたかぁ～？」
マモン爺から受話器を取ったのは「姦淫」の魔王アスモデウス。
「…アスモデウスか？
まだ魔界に居たのか？
東京での『ライブ』が近いのではなかったか？」
「人間界と魔界を繋ぐ回線のトラブルが頻発してるそうなんでメンテナンスに来てたんですぅ～。
私は『理数の悪魔』でもあるから、コンピュータの発達で最近はそっち方面で大忙しですぅ。」
「そうか、では余のアパートの電話もパソコンも…？」
「勿論、ネット回線は私の担当ですぅ。」
「そうか、なら話は早い。
アスモデウス、お前から余に『すまほ』を…。」
「却下ですぅ。」
「何故だ！それがあれば奈々子殿とも…。」
「それよりもサタン様は奈々子ちゃんを、私のカウントダウンライブに誘うですぅ」