印刷技術が発達した19世紀半ば、富裕層のゴシップ記事ばかりで巨万の富を得た「新聞王」フェリペは 、貴族の娘を妻にした。
相手は「没落貴族」と噂されるランカスター家の娘ナターシャ。
父母に従順であった娘は、夫に対しても従順な妻であった。いや、従順であろうとしただけだった。
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ナターシャは愛の無い結婚生活に限界を感じていた。
成金の主人はただ社交会の足掛かりが欲しかっただけのでは?
「家名」以外に売るものが無い両親に私は利用されただけなのでは?
広大な屋敷がナターシャの胸に風穴を開けた。
堂々と女遊びと浪費を繰り返す主人に怒りよりも絶望しか感じ無かった。
「…もう、私が生きている価値なんて…。」
三階の窓を全開にすれば、心地よい風が私を空に誘い出そうとした。
しかし…。
「いけません!奥様!」
いち早く異変に気付いた庭師の青年ニコルが下から大声で制止する。
…これを機に、ナターシャは、白昼夢に苦しむことも、空に誘われることもなくなった。
ただ青年の猛々しさに身を任せるだけだった。
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メイドのエカチェリーナは庭師ニコルを慕っていた。
ニコルもエカチェリーナに好印象を持っていたのだが…。
「奥様、もうすぐ旦那様の馬車が帰ってきますから…。もう…。」
「そう…。ならば早く私を導いておくれ、ニコル。あぁ、ニコル、私のニコル!」
「奥様ったら、今日はまた一段と激しい…。
まるで野の獣のよう…。
駄目よ…ニコル…どうして私じゃないの…?」
鍵穴から二人の情事を覗くことはいつしかエカチェリーナの日課となっていた。
「奥様は寂しいだけ、ニコルは優し過ぎただけよ。二人の間に愛は無いのだから、もう少し待てばきっと私に…。」
と、声を殺し、奥様に自分を重ね、右手で秘所を慰める事も彼女の日課となっていった。
ある日、夫妻が揃ってパーティーに外出した夜、エカチェリーナは「この機会逃すまじ」と、一計を案じた。
「ニコル、奥様が体調不良で緊急帰宅されました。
直ぐに自室に来いとのことです。」
勿論、エカチェリーナの嘘。
灯かりの消えた奥様の部屋で服を脱ぎ、彼を待つ。
「…もう、こんな事は止めませんか奥様?
僕が本当に愛してるのはメイドのエカチェリーナなんです!」
ドア越しのニコルの独白。
嬉しさのあまり、裸で廊下に飛び出したエカチェリーナは、本当に体調不良で帰宅したナターシャと鉢合わせした…。
終