魔界。
それは「混沌」の一言に尽きる。
法も秩序もなく、悪魔も妖精ももののけも、誰もが互いに干渉することなく、自由な価値観で生きる世界。
僅か2552年前に堕ちてきた「新参者」のサタンは勢力を確保するのに長い年月を擁した。
勿論、サタンに賛同する者は自らの自由意思で忠誠を誓ったのであった。
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「サタン様、大天使ミカエル様が、面会をご所望でございます。」
「ミカエル殿は余に会いたいのではなかろう。
ルシファーに会いたいのであろう?」
魔界に一際大きくそびえ立つ宮殿。
そこの主である青年は、「サタン」と、お付きの執事から呼ばれていた。
「はっ…勿論でございます。ミカエル様は休暇の度に、このアビス(奈落)まで…。
ルシファー様はまだ覚醒されておらず、覚醒された暁には、こちらから報せを入れると、何度もお伝えしてるのですが…。
天界はさぞかしお暇かつ、ご給金がよろしいことで…。」
「フン、経費はどうせ天界持ちだ。奴らは天地万物を自らの資産と考えておる。
『貪欲』の罪を司るマモン爺には到底理解できまい…。」
「はっ…。全くでございます。」
※あくまでメモなんだからね!
第三の罪『貪欲』の魔王マモンは魔界一の厳格な悪魔です。サタンお付きの執事であり、私欲に走る生物を粛正する、最も『貪欲でない』悪魔です。
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「興だ…。たまには余が会ってやろうか?」
「いけません、サタン様は人間界の監視が…。」
「よい…。余の仕事は終わった。」
「それでは…?」
「あぁ、最適な女性が見つかった。
余は今から人間界に行き、この女性に、私の中に棲むルシファーを転生させる!」
「おぉ、ついにこの日が来たのですなぁ…。サタン様とルシファー様が個別の肉体を持つことに成功すれば…。」
「ヤハウェよ!
首を洗って待っていよ!私個人ならミカエルにもヤハウェにも遅れは取らぬ!
ベルゼバブ!進軍の準備を整えておけ!」
「あら、私はいつでも準備OKよ。
でもね、サタン様。
人間の女性にルシファー様の人格を転生させるなんて一筋縄じゃいかないのよ、知ってた?」
「…召喚に応じて契約すればいいのだろう?」
「あのね、21世紀の女性にそんなの出来るわけないでしょ!
サタン様は人間としてこの女性・落合奈々子と恋を実らせるの!」
「恋?」
「そう。レビアたんが、サタン様は彼女のアルバイト先の後輩として出会うよう手配したから。」