グランド
「一体何なんですか!
部活に来るなと言ったり、無理矢理連れて来たり!
柿崎先輩に謝ればいいんでしょ!
どうせ俺だけを悪者にしたらいいでしょう!」
赤松くんの機嫌が悪いのは最もだ。
帰る途中に三年女子の先輩達に拉致されて(しかも縛られて)グランドに連れて来られて楽しいはずがない。
でも、赤松くんは本当に柿崎先輩のケガに対して何の責任も感じてないの?
クラスのみんなみたいに「やられ損」って思ってるの…。
私は柿崎先輩がケガする原因を作った、赤松くんの心の声が聞きたい…。
それは宇都宮先輩に対しても同じ。
先輩の音楽活動と柿崎先輩のケガは別物のと割り切れるのかな…?
「なぁ、赤松。俺のケガは時間が経過すれば治る。
それを言いたいんじゃないんだ。
だが、お前の態度と行動はフィールドの内外で…。」
あくまで冷静な話し合いを提示する柿崎先輩。
責任を追求したり、恨みがましいことを一切言わない先輩を私は益々…。
だから私も何か力になりたい…。
「…俺が刺されていれば良かったんでしょ。」
吐き捨てる様な言葉に、柿崎先輩はおろか、誰もが唖然と言葉を失った。
「おい、赤松。
お前本気で…?」
背を向けて帰る準備をする赤松くん。
お願い、冗談って言って!
柿崎先輩にそんな言葉を浴びせないで。
「もしそうだったら、サッカーを辞める理由が出来たのに!」
「赤松?」
「みんなどうせ、大会のことしか考えてないんでしょ!
俺がいないと準決勝が不安だから、理由つけて引き留めたいだけでしょ?
もう嫌だ!
僕は点を取るマシンじゃない!」
その時何故か、私には193センチの赤松くんが親とはぐれた迷子の幼稚園児に見えました。
「サッカーなんてただの遊びだよ!
ただのクラブだろ?
やらされたからやった。
やってみたら上手かった。
だから続けさせられたんだ。
本当はいつだって辞めてやるよ!」
憑き物を払うように喚く赤松くんに対して、沈黙を守ってきた片倉先輩が詰め寄る。
「…瑞穂はね…。君が自分や南部さんと同じ孤独を抱えた境遇じゃないかと誰よりも心配してたんだよ…。
それが君の才能によってポジションを失った僕には…あんまりだよ。
ごめん…僕も暫く消えるよ。」
「ガッ!」
喚き立てる赤松くんを黙らせるボディーブロー。
「バイバイ…。大きな赤ちゃん。」
「サッカーなんて大嫌いだよ!」
二人とも帰って行った…。