…やれやれ…。
秋には茉奈が中盤を、前線は柳生が仕切らねばならぬと言うのに…。
茉奈の奴はまだまだだな…。
仕方ない…。
サービスするか…。
「柳生!走れ!」
島と伊達の足の早さの「ミスマッチ」を狙っても良かったが、それでは練習にならん…。
新戦力の大谷の実力もみたいし、柳生…。
期待してる…ぞ…。
「何やの?柳生先輩って、高さばかりやのうて、足も早いし!」
単純なスピードではやはり柳生に分があるか…。
「ありがとう、大谷さん。でも私、ただデカいだけじゃありませんから!」
マークの大谷を振り切り、ボールに追いついた柳生。
普通ならパスかシュートかでプレイの選択を迫られる時だが…。
「ドイツで学んだ、見よう見まねの『グングニル!』」
いわゆるランニングシュートか!
ボールに追いついたファーストタッチで、トラップ無しのいきなりのシュート!
柳生の奴、いつの間にこんな技を…。
「フレイアさんのグングニルはドリブルしながらだけど、これだと私のパワーとスピードを活かせるって、優矢くんと必死に開発したんだから!
入って!」
「決まった」
私でさえそう思った。
キーパー結城の手が届かない隅にボールが突き刺さると誰もが思った。
恐らく柳生にとっては十回に一回、いや二十回に一回の会心のシュートが最初に来たのだ。
ノートラップで打てばそれだけコントロールを失う。
しかし、今の柳生のシュートは正確にゴールに吸い込まれるはず…だった…。
死角から飛び出した一人の影。
ぎこちない跳躍で身体を投げ出し、ヘディングで絶体絶命のピンチを、起死回生のスーパークリアか?
と、思わせたのも一瞬。
「へぶっ!」
左サイドバックの伊達の顔面にボールは直撃し、そのままゴールインだ…。
幕切れはあっけなかった…。
「ええと、真田先輩、私のシュートでのゴールですか?
それとも伊達ちゃんのオウンゴールですか?」
さすがの真田も判定に困っていた…。
確かにプロでも意見が別れるかもしれんな…。
「あぁ、伊達ちゃんにクリアの可能性もあったから…公式戦ならオウンゴールかも…。
でもこれは校内の練習だから柳生ちゃんのゴールだ!
得点おめでとう!」
「やったー!優矢くん私やったよ~!
もう、大好き~!
あっ、言っちゃった…。」
フン、真田らしいな。
まぁミスを責める状況ではないな…。
しかし…伊達の奴…。あの反応は…不思議な奴だな。