第六話 コーデリア=ヴァール 14歳
「恋をしている」それが本当かどうかは、気持ちを秘密にしたがっているのが何よりの証拠だ。
僕は一度たりとも友人に秘密を打ち明けたいと思ったこともないし、浪漫譚を雄弁に語ろうと思ったこともない。
不実な恋でさえも、美を備えた恋は秘密であるものだ。
僕は今日、「コーデリア」と名を呼んだ側の二人の少女が入っていった家を訪れた。
ヤンセン婦人という三人の娘を抱える未亡人の家だった。
僕は可能な限り、そこでコーデリアの事を尋ねた。
が、三人が口々に話始めるから内容を整理するのに大変だった。
(注・恐らく三人目の娘はまだ幼女の可能性が高い)
彼女の名前はコーデリア=ヴァール・14歳。
海軍将校の娘として厳格に育てられたが父は他界し、母親も亡くなっている。
現在は父の妹である叔母の家で暮らしているが、叔母は亡き父に似て固い婦人であり、深い交流を持つ人ではないらしい。
突堤の近くの家でひっそりと暮らしているのだ。
ヤンセン婦人の二人の娘も、王宮主催の料理教室に一緒に通う仲で、彼女がウチに訪れることがあっても、自分達は彼女の家に行ったことはないそうだ。
5月22日、今日僕は初めてヤンセン婦人の家でコーデリアに会い、紹介された!
パーティーで見かけた時から約1ヶ月半、料理教室へ娘さん達を誘いに来た時に僕が居合わせたのだ。
二人の娘が支度してる間、婦人は僕を紹介し、彼女と当たり障りない二語、三語を交わし、お互い不相応に丁重で終わった。
都合三人の娘さん相手に、
「お伴しましょう」
なんて切り出しても良かったが、あまりに騎士ぶった態度だし、そんなことで彼女を獲得出来ないのはわかっていた。
彼女には叔母しかなく、世間から孤立していた。
そして彼女はヤンセン嬢達のお喋りにうんざりしているのはすぐに見てとれた。
無理もない。一つ上の兄しか知らないコーデリアは、
「若い娘は何なのだろうか?」
「いっそ、男に生まれたかった」
と思うに違いない。
彼女が理想に描く女性はジャンヌダルクかもしれない。
このままではいけない。
彼女に「女性らしさ」を引き起こすのが僕の大仕事だ。
それには何よりも彼女の崇拝者となる男を彼女自身に背負わせるのが最適なのだ。
(続)
近づいてみると「少年」のようだった彼女に危機を感じたのです。
違う男性に愛されることで彼女に「女性」を意識させようとします