『誘惑者の日記』を我流に訳す 4 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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第四話 出会い・コーデリアに対する最初の記録


僕は確かに彼女を見た!
だが何も思い出せない。
目を閉じても全く彼女の姿形を思い描けない。

彼女は母親らしき人と(そのパーティーの席に)居たが、僕はその女性をはっきり見ていない。
唯一の手がかりをも失ってしまったのだ。

…ただ思い浮かぶのは彼女が着ていた緑色のコートのみ…。

僕は「偶然」を呪ったことはない。
「偶然」はいつも必要な時に起こってくれて常に僕に味方をしてくれたからだ。

だが今は「偶然」を呪いたくなる。
「偶然」があの時の彼女を知るきっかけを与えてくれないからだ。
あれからもう、1ヶ月が過ぎた。
春は終わりを告げ、人々はコートをクローゼットに仕舞い込んだ。

僕は狂おしくなる。
あぁ、唯一の手がかりである彼女の緑のコートさえも僕は失ってしまったのか?

突然降り出した雨に、門扉の下で雨宿りをする。
雨宿りをするのは雨具を持ってないからとは限らない。
僕は時々、雨具を持っていても雨宿りをする。
雨具を持ってないお嬢さんに出会えるからね。

おっと、お嬢さん、僕がそう言ったからってそんな怪訝な表情をしないで下さい。
それ以上疑うことは僕の名前と家柄に賭けて許しませんからね。

僕はただ貴女への質問を授かっただけですよ。

「お嬢さん、貴女は雨具を持たずに困っているお嬢様を知りませんか?
と、僕の雨具が尋ねているのですよ。
それともひとっ走りして、駅まで馬車をご用立てして来ましょうか…?」

いえいえ、お礼には及びません。僕は当然の責任を果たしただけですから。

緑のコートの彼女を想ってなければ、僕はこのお嬢さんともっと親しくなることを選択しただろう。

突然の雨は初夏を告げる雨だった。
命が躍動する初夏よ!
「親切なる偶然」に僕は感謝している!

緑のコートは着ていなくとも、僕は直ぐに彼女だとわかった。
北門と東門の間の歩道で彼女を見かけた。
海辺の方へ向かう彼女。
彼女に見られない様に後を追う僕。
彼女は釣りをしている少年を見て足を止めた。
少年は自分の釣りを見られるのが不快らしく、感情を込めた表情を彼女に送りつけると、彼女は大声で笑いだした!
彼女の笑う仕草の何と若々しいこと!
それはまるで少年と喧嘩も辞さないほどであった。

そして東門に向かう彼女の先には一軒の家がある。

チャンスだ!僕はあの家を知っている!彼女より先に訪問すればいい!(続)