前半30分
「申し訳ございません、自分の責任でピンチを招いてしまって。」
南部ちゃんのファウルで相手チームのフリーキック。
榎田が壁の指示を出し、みんなはここまでの戦力分析をする。
「いや、南部ちゃんは良くやってるよ。
パワー、スピード、高さ。どれも女子のレベルを超越した一級品だ。」
「高坂さんと伊東さんが自分のフォローに回ってくれてますので何とか…。」
「…私もあのイザベラにここまで苦戦するとは思わなかった…。ブラジル代表は難しいからと、母方のパラグアイ代表を選択しただけのことはある。
大友、佐竹、気を抜くな。」
キッカーは予想通りイザベラ。
センターバックのロロも上がってきて、俺達にフレイアかロロか的を絞らせないつもりだろう。
だが、ここを防げばカウンターのチャンスだ。
それには…。
「小菅、相良。ぶっつけ本番だがアレをやるぞ。
いつでも備えとけ。」
俺はピッチの外から二人に指示を出した。
高坂が守備に忙殺される限り、二人が前線の武田を活かす攻撃の鍵だ。
「フレイア、ロロ、行くわよ!」
助走つけたイザベラの強力なフリーキック。
壁を巻くようなテクニックではなく、壁を正面からパワーで抜いてきた。
弾丸の様なシュートは伊東に当たって跳ね返り、素早くフレイアが走り込むが南部ちゃんが追従する。
「私に負けないくらいの反応の早さね!
きっと将来素晴らしいディフェンダーになるわ。
でも、一瞬の遅れが命取りになるのが世界よ!」
「まさかシュート?まだ25mはあるのに…。」
「この距離は射程圏内よ!『轟き渡る青天の雷槍(グングニル)』」
まさしく雷の様なミドルシュート。
南部ちゃんもキーパー榎田も一瞬反応が遅れたが…。
榎田の立ち位置の逆側には予め、高坂が居た。
滅多に見せないヘディングでフレイアのシュートをクリアし、こぼれ球は左サイドバックの百地に渡り、カウンターが始まる。
「銀髪の魔女め…。あのシュートの威力は体験した者でないとわからない…。私の読みが当たったな…。
あとは小菅、相良頼みだな…。」
小菅は左サイドを駆け上がった。
そう、左サイドだ。
俺の指示はいつもと逆の小菅が左、相良を右に配置することだった。
「凄い、いつもより視界が広い。
はっきり相良も武田先輩も見える。
これなら僕のスルーパスも出しやすい。
走れ相良ー!」
小菅の右足から大胆なサイドチェンジで相良に渡る!