結城翔子の決断
「…うん、じゃあね。」
「あの…本当にごめん。」
「今更止めてよ、謝られたら…惨めだわ。」
やはり違う高校の彼氏との恋愛は想像以上に辛く、私は不安と疑念を抱えながらの毎日を過ごしていた。
部活に打ち込むことで疑わないようにしていたが、それは「彼」を「私の中の彼」と同一視しようとしていただけだったかもしれない。
「…確か…マネージャーだったっけ?
クラスメートかな?」
「…両方正解だよ。」
「ずっと一緒なんだね。
羨ましいな…。
良かったね。」
『羨ましい』は「彼に」ではない。私が私に抱く恋愛イメージへの羨ましさだ…。
もう別に…彼にもその女の子にも怒りが沸いてこない…。
「今日だけじゃないんでしょう、どうせ…?」
「あ、あぁ。」
もう、私に嘘もつかないし、カッコもつけない。
今日、私は『現場』を押さえたが、お互いに虚勢を張るでもなく、逆ギレするでもなく、驚くほどお互いに淡々としていた。
ただ傍らでギャーギャーと泣き喚くその女の子に同情した。
「駄目じゃない、『彼女』を泣かしたら…。」
「彼女じゃないよ…。」
そう、だからと言って私をまだ彼女とも言わなかった。
「あの子の方からなんでしょう?」
「うん…。」
私の時もそうだった。
声をかけてきたのは彼だったが、練習試合を通じてデートの約束を取り付けたのは私だった。
学校が違うからこそ、会える日に頑張り過ぎたかもしれない。
不自然な私がお互いを傷つけてきた。
決してあの子が原因ではない。原因であってはならないのだ。
「今度は大切にしなよ…。私みたいな扱いしたら駄目だからね。」
「イヤ、あいつとも終わりさ。あいつは今日のことを許してくれないさ。」
そう、あの子がそう言うから。
だから私を追いかけない。
嫌われてまで求めようとはしない。
私が「あの子を追いかけなさい」って、言えば追いかけるのだろう。
もし、あの子が「どうか結城翔子さんと別れないで。」って、泣いてお願いされたら私を追いかけるのかと思えば吐き気がする。
だから私からは彼に何も提案しない。
泣いてすがりつく女らしい女が彼にはお似合いだ。
ただそれが私やあの子じゃなかっただけだ。
「どうせ別れるのに『最中』に乗り越んで悪かったわね。
片方は残ったかもしれないのに…。」
春休みを前に私の恋は終わった。
喜ぶことではないが悲しくもない。(終)