「あぁもう!6人で守るなんてあり得ない!
こんな地味な作戦考えたのって、どうせお兄ちゃんでしょう?」
高坂へのパスは阻まれ、小菅と二人で攻めあぐねる伊東茉奈ちゃんは、イライラを実の兄にぶつけた。
「悪く思うな茉奈。
カッコ悪くても勝てばいいんだよ。」
センターバックの伊東兄が妹の茉奈ちゃんに容赦なくスライディングタックルでボールを奪りにくる。
茉奈ちゃんは右足でのキープを左足に替えてかわすが、そね瞬間を…。
「茉奈ちゃん、山名さんが狙ってる!
戻して!」
小菅の声で、慌ててボランチの佐竹にボールを戻し、伊東、山名の波状タックルの難を逃れる。
「なるほど、一人目のプレスに対処した瞬間を狙って、二人目がボールを奪うゾーンプレスか…。
しかも残りの二人がエリアを狭めて囲い込みに…。
だったらここだ!」
ボランチの佐竹は冷静に、紅組にまだ残されたストロングポイントから攻撃を組み立てようとした。
そう、左サイドの柳生ちゃんの高さだ。
「来た!高坂先輩が徹底マークされてるなら私がチャンスを…。」
「そう何回も同じ手は喰わないわよ、柳生ちゃん!」
白組の島ちゃんはわざと柳生ちゃんよりワンテンポ遅れてジャンプした。
しかもそれは明らかにボールよりも柳生ちゃんに身体をぶつけるのが目的だった。
ヘッドでのコントロールを失った柳生ちゃんは自分の足下にボールをキープ出来なかった。
「島先輩ズルいです!」
「私前に言わなかった?
『身体に恵まれてない女はテクニックを磨け』って。
あれは別にお布団の中だけじゃないからね♪
空中戦で勝てないなら、せめて相手の自由を奪うのに専念するわ!
理恵、お願い!」
柳生ちゃんが失ったこぼれ球は山名さんが拾い、オーバーラップした右サイドバックの鳥居に渡る。
ゾーンプレスは山名さんの運動量あっての戦術のようだ。
「佐竹先輩、百地先輩、お願いします。」
「俺がこのままかけ上がっても二人に止められるのわかってるよ!
武田、中島さん!」
鳥居は強引に深くドリブルで切れ込むよりも、ロングの縦パス一本で前線に繋いだ。
「ようし、ダーリンいくわよ、私達の愛のコンビネーションを見せ…。」
「ピッ!」
「やりましたわ!
宇都宮さん!
大成功ですわ!」
線審役の一年生が旗を上げる。
そこには最上さんによって統率された紅組の4バックが、オフサイドトラップに成功した光景があった。