「『私より柔術の才能がない。』
ただそれだけで父は秋彦を冷遇してきたわ。
父と私に対する劣等感を抱えて育った彼はやっと自分の居場所、漣と柚子葉と野球に出逢ったわ。
ある雨の日、弱小チームを秋彦の好投と漣のリードと打撃で勝利に導いても…。
それは父にとって何の価値も無いことだったの…。
あの日たった一言『よくやったね。』と言ってあげれば、弟は怒って家を飛び出すことも、事故に遭うことも…。」
大粒の涙をこぼす姿に部員達が声をかける。
「先生、辛いなら無理に話さなくても…。」
「いいえ、これは創部記念パーティーよ。
だからこそ顧問の私のことを知っててほしいの…。
…遺された者の苦しみと悲しみは消えないわ。
学校や警察にすれば『夜中にバイクに乗る不良の事故死』
としてか見てくれなかったわ。
一体あいつらに私の可愛い弟の何がわかるって言うの!
だから私は父も教育現場も警察も大嫌い!
権力者は大嫌いよ!!」
「じゃあ、三好先生が教師を目指したのは…。」
「遺された私達は二度と秋彦みたいな少年を作らないって心に誓ったわ。
それが何よりの供養だって。
私は教師として、漣は研究者として、柚子葉は保育士として現場を変えることを秋彦の墓前に誓ったわ。
…けど、遺された者の悲しみはそれだけじゃない…。
柚子葉は秋彦を愛してた。
そして漣は柚子葉を…。
時々、漣は私に『まり姐、どうしたら死んだあいつに勝てるんだ?』って相談してきてわ…。
真田くんと内藤さん、そして自分の妹の三人が昔の自分と重なったから勝負を挑んだのかな?
他の女性との快楽に溺れて、忘れたフリをし続けて…逃げる様にドイツに行って…バカな子ね。
結局10年も柚子葉を想ってるクセに…。
まぁ、私も一緒かな?」