「お願い、まー君を奪らないで。」
一晩悩んで私は山名理恵にこう告げることにした。
自分でも笑ってしまうほどの正攻法だ。
だが、彼女の真意が読めない限り、私はこうするしかなかった。
効果はあった。
彼女は静かに
「自分でも嫌になるくらい…」
と語りだした。
「『誰かを好きな誰か』に恋してしまうの。
真剣に誰かに恋をしてる男に恋をして、全く眼中に無い私を見てほしいって思うの。
そして本当に成功したら急に冷めるの。
おかしいでしょ?
だから私に彼氏なんてずっと出来ないし、親友もいなかったわ。」
寂し気に語るその雰囲気に見覚えがある。
そう、高坂瑞穂と同じ雰囲気なのだ。
「だから嬉しかった。
一緒に『サッカーしないか?』って声をかけてくれた時は。
何やっても中途半端な私が一生懸命になれるモノを照らしてくれたみたいで…。」
「でも、貴方がしようとしてることは…。」
「そう、その恩人の高坂さんの『想い人』を私に振り向かせたいなぁ、って考えたら全身が熱く興奮しちゃって(笑)。」
「貴方…、完全にどうかしてるわ!」
「そうかもね、でも内藤さんはどうやって自分をマトモと証明できるのかしら?」
「それは…」
怖い、正直私はこの女の狂気が怖かった。
それは自分と同じニオイのする狂気だから怖かったのだ。
私の様に壊れてて、瑞穂の様に寂しい女…。
まー君が真正面からこの女と向き合ったら一瞬で堕ちるかもしれない。
私は何よりもそれが怖かった。
「ふふっ、でも安心して下さい。
私のターゲットは必ずしも真田くんと決まったわけではありません。」
「どういうこと?」
「答えは内藤さん、貴方という存在です。
高坂さんと同じ位に、真田くんも彼女を好きなら迷いなく奪いに行ってたわ(笑)。
でも真田くんには貴方もいる。
だからまだそんな気にならないの。」
「じゃあ、私達のうち…。」
「そう、真田くんが貴方か高坂さんか決めた時点で参戦させて頂くわ(笑)。
それに今は高坂さんの『想われ人』の方が正直気になるの。
もう、こんなの話したの内藤さんだけですよ(笑)。」
「それって…まさか…?」
「そう、純粋な瞳で高坂さんだけを視てる彼に私を視てほしくなったの。
応援してくれるよね?内藤さん(笑)。」
それだけ言い残して彼女は消えた。
そう、山名理恵は「今は」一年生の小菅健吾くんをまー君以上に狙っているのだった。私は素直に喜べない。