あぁ、落ち着く。今が私の至福の瞬間。
「書の乱れは心の乱れ。心の乱れは書の乱れ。」
だとホントに思う。
なのにその幸せを壊すかのように山県美咲が茶々を入れてくる。
「京子~。こんなとこで書道なんてしてていいの~?『旦那様』が『愛人』に奪われちゃうわよ~?」
もう、部活が始まってからずっとこんな調子。
「はいはい、書道部が書道する。サッカー部がサッカーする。それだけのことでしょう。」
「あ~、無理してる~!本当は愛しの会長様の所に飛んで行きたいくせに~。」
わかってる。
どうせ皆、昨日の続きで高坂瑞穂と私のバトルを期待してるんでしょう。
私はまー君を信じてる。
お昼休みに散々釘を刺しておいたから大丈夫。…なはず、と思う…。
「あのね、これは部活なの。クラブ活動です。校内で貴方達が想像してる様な間違いは起きません!」
「そんなに怒んないの!もうすぐ偵察に行かせた奈津子が帰ってくるわ。」
グランドから校舎に戻ってきた井伊奈津子が高坂瑞穂の初練習を報告する。
「昨日の噂を聞き付けて凄いギャラリーよ!一年女子を中心に『キャー瑞穂さまぁ~!』ってフィーバーぶりよ。
ファンクラブでも出来るんじゃない?あんなにカッコ良くてサッカーが上手な女の子なら。」
「あん、そんなことより会長との絡みはどうだったのよ?」
美咲が興味津々に尋ねる。
「別に~。ただ普通に練習してただけだよ~。でも高坂さんて、教えるのもすっごく上手で皆楽しそうに練習してたよ~。」
「何よ、それだけ?つまんないな~、もっと何かこう事件は無かったの?」
美咲ったらそんなに私達の危機を煽りたいのかしら?
「ほらね、たかがサッカー部の練習でそうそう破廉恥な事件が起きてたまりますか!」
「あっ、でも武田君と榎田君が高坂さんに『一日デートPK』を賭けて挑んだけど、返り討ちに遭ってパンツ一枚でグランド10周してたわ(笑)。」
ガタンっと書道用具を放り投げてしまったじゃない、心の乱れどころか全身の乱れだわ。
「十分に事件でしょ?それ?」
美咲が最もなツッコミを入れる。
「あの変態サッカー部なら日常茶飯事よ。でも高坂さんとペア組んだの真田会長よ。
よっぽど高坂さんをデートさせたく無かったのかな~?鉄壁のディフェンスだったな~。」
奈津子が語り終わる前に荷物をまとめる私。
サッカー部を観に行くんじゃないからね。
早目に部活が終わったから迎えに行くだけなんだから!