「ちくしょう!似てるのは顔だけか!」
もう何度このセリフを繰り返しただろうか?
無理もない、全てはあまりに突然すぎた。
昨夜のあいつとの出会い、そして今朝のあの娘との出会い。
今はただ、家に帰ればあの娘が消えていることを望むばかりだ。
だがこれはアニメじゃない。
「ありす」は確かに存在しているのだ。
昨夜の僕は無意味に飲みたい気分だった。
親友同士の結婚式は僕にとってあまりにもショックだった。
ずっと三人一緒なんて絵空事だとわかっていた。
だが周囲に祝福され、双方の両親が涙する姿に私は堪えれなくなり、二次会を断った。
気晴らしに高級なバーに行ってみた。
それが間違いの始まりだった。
あいつに出会ってしまったのだから。
そう、本当に似ているのは顔だけだった。
何せ、あいつに取ってあそこは気まぐれで訪れた「庶民の店」なのだから。
「ほう、鏡を見ているとは正にこのことだ。
君には人生初の親近感を憶えるよ。」
あいつは馴れ馴れしく言った。
イヤ、馴れ馴れしく言った風に振る舞いたかったのかも知れない。
「僕は貴方に嫌悪感しか無いな。似ているのは顔だけで、君と僕とはまるで違う。何でもお金で思い通りになると言うその態度を改めてくれ。
それか瓜二つの同じ顔に免じて僕の前から消えてくれないか?」
あいつは何もかも鼻につく態度だった。だから僕は精一杯の悪意を込めて言った。
鏡の中の僕にさえ取ったことの無い悪態だった。
それが余計にあいつを刺激した。
「思い通り?ああ、私はこれからも何でも思い通りにして見せるさ!」
「だったら今すぐ僕をお金と君の力で幸せにして見せろ!どうだ出来ないだろう!」
バーで出会った初対面の男にする会話でないのは理解していた。
だがあまりに自分に似たあいつの容貌が僕の「タガ」を外した。
あいつは一言
「御安い御用だ。」
と言って消えていった。
全く、酒代を奢りもしないで、とんだボンボンに出会ったものだと昨夜は床についた。
しかし、それは突然訪れた。
今朝早くのインターホンが僕の運命を変えた。
「おはようございます。
ご主人様!
今日からメイドとして働かせて頂く『ありす』です。」
目の前には信じられないほどの美少女が居た。
一通の手紙を携えて。
「親愛なる同士よ。
『ありす』は貴殿の幸福の為に。
連絡方法は彼女を介しての手紙のみとする。
貴殿の幸福を願うならありすに詮索しないこと。 山田太郎」