彼女に引き込まれていく自分に対する不安をはらい数日後、再びハルカのお店に電話をした。
電話の向こうからの言葉。

「すいません。ハルカさんはもう今日は上がってしまいました。」
深い落胆。
微かな安堵感。


彼女に激しく会いたい。
しかしこれ以上ハルカにはまってどうするんだという自問。
彼女との縁はこれが現実なのかも知れないと諦めかけていた時に電話が鳴る。
「すいません。先程ハルカさんが行けないと言ったのですが大丈夫になりました。」
頭の中が真っ白に染まる。
「お願いします。」


インターフォンが鳴る。
息を呑んだ。
彼女との限られた時間が始まる。
胸が高鳴った。


ドアの向こうにハルカはいた。


一目見て感じた。
何かがあった。
暗い笑顔。


彼女を招き入れた。
彼女が自分の靴を整えている時に伝える。
「君に出会えて、僕も自分の靴をきちんと整えれる様になったよ。ありがとう。」
少し明るい笑顔がハルカからこぼれる。
僕の心の中がざわめいている。
ハルカに一体何があったんだ。
前回とは明らかに違う顔色。

彼女をソファーに座らせ、飲み物を入れた。

そして彼女に聞いてみる。
「前回と顔色が違うね。何か有ったのかい?」

色々と溜まっていた様子であった。


強引で嫌なお客さんの事。
大切な用事が有るのにも関わらずお店に良いように使いまわされて休みを貰えない事。
お店のスタッフとの人間関係。
扁桃腺持ちの彼女はサービスにより喉の痛みが激しい事。


想像できる事。
想像したくない事が僕の頭の中を回る。


昼も箱型で始めようかと考えている事を告白される。
お店の名前を聞くと知り合いの社長の店。
ヤバイ筋。
そこは絶対に止めた方が良いと忠告する。
しかしハルカは生きて行く為に仕事を辞める事はできない。


仕事を好きだと言った。

嘘。

仕事を好きな人間なんて数える程しかいない。
働かずに生きていけるならそれにこした事は無い。
しかしそう思わなければ生きていけない彼女の現状が痛いほど解っていた。

家賃。
光熱費。
税金。
年金。
キャッチで捕まってしまったエステ代。
生活維持費。
家への仕送り。
それに若い女の子ならば当然の事ながらお洒落もしたい。


痛々しげに彼女は言った。
「でも今のお店もできるだけ頑張ってみようと思っています。」 

僕にできる事を考えた。

金じゃない。
金だけじゃない・・・。


「今出来る事を、今やらなければいけない事を、一生懸命頑張りな。僕は応援している。もし、どうしても無理になったり、嫌になったら、僕が助ける。」
そう彼女に伝えた。

僕は彼女の前に生きようとする姿勢を応援したかった。
それこそが彼女の今後の人生に役立つ事と感じていた。


少し安堵の表情を浮かべた彼女の肩を軽く揉み言った。
「大丈夫!大丈夫!絶対に守ってやる。」
恐ろしい程凝っていたハルカの肩に涙が出そうになった。
「肩凝ってるな~!ちょっと揉んでやるよ!」
彼女の前では常に強い自分であろうと決めた。
ハルカに守られているという安心感を与えてたかった。


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二十歳の女の子が田舎から出てきて一生懸命生きている。
恐らくは想像もしていなかった世界に身を置き、今を懸命に生きている。

ハルカが僕の玄関の散らかっていた靴を、スリッパを整える姿が目に浮かんだ。
「俺は一体今まで何をしていたんだろう・・・」
そんな事を考えた。


この地に身を移して約二年。
仕事もそこそこに良い感じで毎日を無難に楽しく過ごしていた。
どちらかというと横柄に生きている。
玄関の靴も整える事が出来ていなかった男なのに・・・。

僕は散らかっていたテーブルの上を片付け、部屋の掃除をした。
「俺はきっと当たり前の事を多く忘れて生きていた。」
ハルカは僕が自分を見つめ直すきっかけを作ってくれた。


数日後、ハルカの店に電話をした。
「すいません。ハルカさんはお休みです。別の子ではいかがでしょうか?」と勧められる。
僕が求めていたのは身体の欲求を満たす事では無かった。
ハルカという人間を見つめる事。
自分自身の為に。
そして僕がハルカに対して何をしてあげれるのかを見つける為に。


プライベートの僕はあまり人に近づかない人間。
平素が社交的な場に居る事と基本的な人間嫌いが災いしている。
異性に関しては裏切られてしまう事が当然の事という悲しい先入観やトラウマを持っている。
傷つきたくないという自己防衛本能が人との距離を遠ざける。
連絡先を貰ったハルカに対してもその日に「ありがとう。」というメールを送った程度であった。

「店に電話をしたけれどお休みで残念でした。別の子を呼ぶつもりも無い。」
何の他愛も無いメール。

僕は恐る恐る送信をした。

返事が来なければ傷つく自分が想像できた。
自分の弱さを認識した。

しかし予想に反して早い返事が返ってきた。
「そうですか。せっかく呼んでくれたのにすいません。」
僕が家近くのコンビニで買い物をしている時に届いたメール。
バックではGacktの12月のLove Songが流れていた。


僕の心の中は遠く昔に忘れて去ってしまった青春時代の様な感じであった。
家に帰り携帯電話で12月のLove Songをダウンロード。
ハルカからの着信音指定とした。
忘れていた少年の様な気持ち。
僕は眠りに就くまで何度も何度も同じ曲を聞き返した。


「もっと頑張らなきゃいけない。」
そんな自分が少しずつ大きくなっていく。
少しだけ他人に優しくなれた様な気がした。
忘れていたモノを一つ一つ拾い直す人生を目指そう。
ハルカが与えてくれた影響を大切にしたい。

自分の為に。
ハルカの為に。

そう思える自分が少し好きになっていた。

ハルカに出会える事が出来て、ハルカを好きになれただけでは無く自分自身の事も好きになれる様に努力する自分が生まれた。
自分を好きになれなければ、人を好きになる資格は無い。

そう自分に言い聞かせた。


まだ一度しか会った事の無いハルカに自分が引き込まれていくのが解った。
もう誰にも止める事はできない。
そう信じていた。


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気付けばもう三十の半ばを過ぎていた。

四年前に結婚をしたがもう二年以上も単身赴任という建前を持つ別居が続いている。

女性を扱う仕事を始めて七年。

多くの嘘、多くの裏切り。

僕はちょっと女性不信だ。


「女なんて・・・。」


ずっとそう思っていた。

そんな僕が君と出会った。

ハルカ。

二十歳の女の子。

長い間忘れていた胸の痛みを感じる。

僕は年甲斐も無く恋をした。


僕の不器用な愛を、そして僕の不器用な言葉を君に捧げたい。

Dear, Haruka.

This is a Love story for you...



僕の性欲処理は風俗が多い。

恋をするよりもずっと安上がり。

互いに傷つく可能性を秘めた恋愛をするよりも、その場限りの関係は何となく気持ちを楽にさせる。

妻には捨てられている僕だが、僕には妻を捨てる気が無い事も一つの要因かも知れない。

帰る家を失ってしまった三十も半ばを過ぎた妻に僅かな金を握らせて放り出すのは耐え忍びない。

愛情なのか、情なのか・・・。

妻との切れてしまいそうな糸は現在も扶養するという形で繋がっている。


様々な風俗が有るが、僕はデリバリーを好んで使う。

何となく様々な付き合いを持つ僕でも顔を見られる心配が無い。

あの日、あの時に「おまかせ」という僕の依頼に対して君を送ってくれた担当者には感謝しきれない。

お金を受け取るドライバーの後ろから少し不安げな顔で僕の部屋に君は入ってきた。

とても風俗嬢には見えない君。

暗い目と天使の様な笑顔が交差している君。

「可愛い子だ。」

偉そうにも女にうるさい僕が久々に感じた気持。


サービスの内容はハンドサービス。

愛情の無い射精は手でも足でも口でも膣でも変わりは無い。

君の指が僕を這う。

股間、アナル、太もも・・・。

僕は君の美しい、まるで聖母の様な身体に見とれていた。

手を伸ばし、君の乳房を乳首を優しく触る。

君は暗い目で一点を見つめていた。

きっとこの世の果てでも見つめていたのだろう。

僕の胸が締め付けられた。


ソファーで君と話をした。

笑顔はやはり天使の様だ。

田舎から出てきて一ヶ月。

生きてゆく為に選んだ仕方の無い道。

そんな女性達を僕も数多く見てきた。

都会は女の子が一人で暮らすのには厳しい場所だ。

心や身体を切り売りしてでも生きてゆく事が汚い事だと僕は思わない。

僕に何ができるかは解らなかった。

しかしハルカには何かをしてあげたかった。

ハルカの暗い目が明るい目に変わる為ならば、僕には何でもできる様な気がした。


「僕はこういう者なんだ。」

風俗嬢に初めて自分の名刺を出した。

「君はもっと美しくなれる。僕は女性を見るプロだから僕の言葉に間違いは無い。」

君は目を輝かせた。

「本当ですか?」

彼女の暗い目が明るい目に変わったならば、この世の多くの男達が彼女を奪い合うだろう。

僕にはそんな確信があった。

「本当だよ。僕に手伝わせて欲しい。」

彼女に伝えた。

「いいですよ。」

笑顔でハルカは答えてくれた。

「今君のしている仕事はとても大変な仕事なんだよ。今頑張る気持ちが有っても、今これからも頑張っていこうという思いが有っても、ある日突然に何もかもが嫌になって全てを捨てたくなる事が有るかも知れない・・・。残念ながら僕の知っている子達にもそうなってしまった子達が何人もいた。だから、せめて連絡先を教えて欲しい。ある日突然に君が店を辞めてしまい、僕と君との線が切れてしまわない様に・・・。」

僕が女の子の連絡先をこれ程にまでに欲した記憶は無い。

ハルカは笑顔で答えてくれた。

「いいですよ。」

小躍りしそうな程の喜び。

僕の知り合いが見たら驚くだろう・・・。


金が繋ぐ彼女との時間に終わりがきた。

玄関まで彼女を送ると僕の靴がちゃんと整えられていた。

「君がしてくれたの?」

少し誇らしげな顔でハルカが頷いた。

「はい。そうですよ。さっき入ってくる時に。」

忘れていた気持ちが甦る。

「ありがとう。」

そう答えた僕は恋に落ちていた。


あれ程まで素直に人に対して「ありがとう。」と言った記憶が無かった。

あの日以来、僕は必ず自分の靴を玄関で整える。

ハルカが僕に再認識させてくれた小さな当たり前の事。

ハルカが僕に与えてくれた素敵な影響の一つ。


そして僕達の物語が始まる。


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