長い長い冬休みを有する高3生にとっては、めんどくさいだけの始業式。それを終えた帰りの電車での話だ。


 たまたま乗り合わせた車両には、可愛いらしい女学生がいっぱい。電車内だろうと男子校スキルを発揮する俺は、なんだか照れくさくなって別車両に移動した。
(うるせえな、笑うなよ)


 移動したさきの車両で、事は起きた。そこにいたのは進学クラスにいた高一の時、同じクラスだったKとその一味。


 お受験勉強に疲れてるのかどうかなんか知ったこっちゃないが、最近のコイツKは、なかなかどうして(嫌な感じに)絡んできやがるんだ。めんどくせえ。


K「おーい」


 ご丁寧に手までふってきやがる。仲間と一緒だと途端に態度がおおきくなるのが、Kのいいところの一つだ。


俺「あんだよ」


 年中無休で友達募集中の心の広ーい俺は、わざわざKの方に出向いてやった。


K「まあまあまあまあ!」


 Kは近くの座椅子に強引に俺を座らせる。わざわざ出向いてやった客に対してなんて態度だ。


 俺は年中無休友達募集中モードから、年中無休喧嘩上等モード(躾のなってないチワワモードとも読みます)にスイッチを切り替える。


俺「おォ」


 大股を開と、Kのローファーに俺の入学してから一回も洗ってないローファーを乗っける。そして履ける汚物をそのまま、小綺麗なKのズボンの裾になすりつける。チワワもやるときはやるんだ。


K「あァ!?」


 顔を近づけて睨みをきかすK。


俺「んだよ」


 睨み返す。アイフルのチワワと一緒にすんな? にらめっこなら負けねえよ。


K「…」


 Kがひるんだ。はっ、だからにらめっこなら負けねえって言ったじゃん。いままで何回、妹笑わせてると思って——


K「てめえッ!!」


 ——どや顔でにらめっこ無敗記録の感傷にしたっていたら、Kが学ランをつかんできやがった。


俺「ッ!」


 俺はそいつに乗っけてた足で、とっさにそいつのすねを蹴る。『やられたらやりかえせ』は、生理痛(母)に習ったはじめての言葉。


 運良くそのとき電車が停車した。ドアが開く。さっきまでの勢いが嘘だったかのように引き下がるKを尻目に、俺は電車から、その車両から飛び出した。




 俺ん家は、小学生の妹がひとり幼稚園児の妹がひとり2歳児の妹がひとりと母親の、5人家族だ。


 つまり男手は俺ひとり。もしも家が強盗や暴漢に襲われたら、そんときはよろしくピョン☆……みたいな役割なんだ。


 かと言って、このチワワ、腕っぷしにはあまり自信がない。今回だって逃げてるわけだし。


 生まれつき身体は小さいし(いまだに160cm)、なんか習ってるわけでもない。


 それでも必然的に、そういう立場にたたされる。強くなくても、強いフリは、しなきゃいけない。


 自分ひとりも守れないやつが、家族を守れるわけがない。だからKとはいずれ決着をつけないといけない。


 ……。


 とまあ、格好つけてみたものの、内心は不安でいっぱいだ。Kたしかラグビー部のキャプテンだったし。


 だが、ほっといってもまた絡んできやがるのは確実。しつこいのもヤツのいいところの一つだ。


 『躾のなってないチワワ VS デンジャラスK』! 賭け金は、1対99!


 いまチワワに賭ければ一攫千金だよ! さあ、張った張った!←