笑わねー…絶対に、笑わねー…


 雨がふっても、槍がふっても笑わねー…


 こちとら小学校のそれも、中学のそれも、笑わずにやり過ごしてきた身だぞ…


 クラスでひとり…ましてや、学年でひとりだけの逸材なめんな…?


 笑わねー…絶対笑わねー…


 雨がふっても槍がふっても…飴がふってもヤリ●ンがふっても…












 今日は、昨日の告知の通り、小講堂で卒業アルバム用の写真撮影があった。



「髪型これで大丈夫かな?」「だれかワックスかしてー」「やべ、ボタンつぶしたまんまだ」



 各々の期待と不安が飛び交う中、俺はある決意を胸に、小講堂へと向かった。



「絶対、笑わねー」










 小講堂に着くと、出席番号順という名のただの名前順に並べ変えられ、1番のやつから撮影がはじまった。



「あ、もうちょっと背筋伸ばしてー」「校章曲がってるよー」「顔あげてー」



 1番のやつに飛び交うは、それはそれはうっとうしい、カメラマンの指令。


 中でも一際うっとうしいのは——




「はいそこで笑ってー」




 ——この指令……いやさこの、試練だ。




「歯を見せるくらいね」「にーっ、ほらにーっ」




 だれしも必ず一度は乗り越えてきたであろう、通例の試練。


 その黒柳徹子並みのムチャブリに翻弄されてしまうと、後世のアルバムに、ひきつった笑いを残すこととなる。




栂(俺は笑わねーぞ…絶対笑わねーぞ。クラスでひとり、ましてや学年でひとりの、逸材なめんな…)


栂(クラスメートの目を担当の目を顧みず…! 不安げなカメラマンを鼻で笑い…! 執拗に笑わせにかかるカメラマンをドン滑りさせてきたこの身…!)


栂(今回も、完璧なる無表情、かつドヤ顔で写ってやるっ…!)




 やがて……一人、また一人の三年間の学生生活がひきつった笑いに汚されていくのを目の当たりにしたあと——




カメラマン「次、15番の栂くん」




 ——出番がやってきた。


 慎重かつ冷静に席につくと、カメラマンとのタイマンがはじまる。




栂「はい(絶対、笑わねー…)」


カメラマン「お、背筋いいねー。顔もちゃんとこっち見てるねー」


栂「いえいえ(たりめーだ…笑わないために、それ以外のことは全部きちんとこなすんだよ…)」

カメラマン「はいじゃあ、笑ってー」


カメラマン「えくぼを上げてー歯を見せてーにーってしてー」


栂「……(無視だ無視。聞こえねーもうなんも聞こえねー)」


カメラマン「どうしたのー?」


栂「……(どうもしてねーよ。いいから撮れやコラ)」


カメラマン「んー…」


カメラマン「じゃあ、笑わないバージョンから撮ろうかー」


シャッター音『パシャッ!!』




 やつがそう言い終わるや否や、聞き慣れたシャッター音と共に、まばゆい光に包まれた。




栂「……」


栂「……よっしゃああ!!! 今回も笑わずに済んだあああ!!」


栂「ざまあ見ろ、カメラマン! もはははは!」


栂「もっはっはっ——」


シャッター音『パシャッ!!』


栂「——はあ!?」


カメラマン「はい、笑ってるバージョンもらい~」


カメラマン「次の方どうぞ~」







 ……。




 ……。




 ちくしょう…負けた…


 後世に残るアルバムを、もはは笑いで、汚してしまった…


 やがてアルバムが出来上がると、俺のもはは笑いは、友人のげらげら笑いに…親戚のぶひゃひゃ笑いに変わることだろう…




 笑えねー…絶対、笑えねーよこれ…←