行動修正~既存の行動を修正する(2)~
おはようございます。
Lovin' Dogsのランパです。
ミニシリーズ「既存の行動を修正する」では、
恐怖や不安などの条件性情動反応が対象です。
そして、この情動反応や、対処方法である拮抗条件付けなどには、
脳の仕組みが大きく関わっています。
このため、これらを踏まえていた方が、理解しやすいと思いますので、
大雑把になりますが、まずは脳の仕組みから始めたいと思います。
まず外部からの刺激は、
視覚や聴覚・嗅覚といった五感の感覚器を通じて電気信号となり、
視床に送られます(※嗅覚のみ、視床は経由しません)。
ここで、信号は大きく2つに分かれ、
一方は、大脳辺縁系の一部である扁桃体(核)に直接送られ、
情動の判断が行われます。
もう一方は、大脳新皮質の感覚野に送られ、
詳細に処理・分析され、それを扁桃体に送ります。
さらに、連合野で理性的で総合的な処理・判断を行います。
(下図の左上の経路)
重要な役割を担っている扁桃体と大脳新皮質について、
それぞれ詳しく見て行きたいと思います。
扁桃体は、外部からの刺激を、個体および種の保存にとって、
好ましいか好ましくないかを情動として判断します。
情動には「快(喜び)」か「不快(恐怖、怒り、悲しみ、不安)」の二種類しかなく、
単純な分、結果的に処理・判断が速いのが特徴です。
快情動では刺激の対象に対して接近行動を、
不快情動では回避、攻撃、および固まる行動を起こすとされます。
例えば、危険が迫ることによって「不快」情動が生じたとすると、
扁桃体は、
視床下部を通じて、
交感神経系により、あるいはホルモンを分泌することにより、
心拍数や血圧を上昇させ、筋肉が素早く動けるように準備します。
また、脳幹を通じて、
咄嗟に、逃げたり、隠れたり、闘ったり、固まったりと、
反射的な行動を取らせる場合もあります。
(上図の左側半分の経路)
さらに、扁桃体には情動を記憶する機能もあります。
それは、次に同じような場面に遭遇した時、より正確に判断して、
生命を守る可能性を少しでも高めようとするためです。
そして、五感から新たに入ってきた刺激と、蓄えられている記憶とを照合し、
合致する記憶があれば、記憶と結びついている情動を呼び起こします。
ただし、この記憶は断片的で短絡的なため、
起こった出来事に対して幅広く反応してしまうなど、
素早く判断できる分、誤判断をする場合もあります。
平常時は、古い脳である、扁桃体を含む大脳辺縁系は、
最も新しい脳である、次に説明する大脳新皮質の制御下にあります。
しかしながら、強い情動を生じるような、
特に個体および種の保存に反するような非常事態に際しては、
上位の大脳新皮質の働きを抑制し、大脳辺縁系の本来の役割である、
より反射的・本能的な行動を起こして身を守ろうとします。
例えば、目の前に突然、物が飛んで来た時や、
パニックになるほどの恐怖を感じた場合などです。
一方、大脳新皮質では、
扁桃体の素早い情動判断の影響を受けつつも、
外部からの刺激を、詳細に処理・分析すると共に、
知識や経験・記憶などと合わせて、理性的・総合的な判断を行います。
その分、処理には時間が掛かりますが、より正確になります。
例えば、本当に危険なのか、危険であればどの程度なのか、
どちらに逃げれば、どの位の速さで逃げれば、より安全なのかなど。
大脳新皮質は、進化の過程により高等哺乳類で発達していますが、
特に人では際立って発達しています。
人を人たらしめているのは、正にこの部分の働きによるとも言えます。
見方を変えると、
扁桃体を含む大脳辺縁系を制御している大脳新皮質が、
人と比べて発達していない犬が、より反射的・本能的な行動を取るのは、
当たり前のことと言えると思います。
次回は、これらを踏まえた上で、
条件性情動反応についてお話したいと思います。
**************************************************
タグ:学習理論(53)
●お断り
脳の神経回路、機能などについての研究は日進月歩のため、
昨日までの通説が翻ったり、新しい発見があったりします。
また、研究者や立場(医者、心理学者など)の違いによっても
見解は異なります。
さらには、脳の同じ部位でも、解剖学的・機能別・絶対的な位置によって
呼び方が変わったり、常識と思われる部分は省略されたりと、
本格的に学んでいない私にとってはかなりハードルが高いです。
このため、これからお話する条件性情動反応に近い事例の資料を元に、
神経回路図や記事の作成を行っていますが、
必ずしも正しいとは断言できませんので、予めご承知置きください。