部屋に戻って弟ハンチョルからの連絡を待ちながら、スマホをいじっていると、
ハンチョルの会社の同僚から、電話がかかってきました。
同僚)ひょっとしたらと思って、社内で聞いて回ったところ、最近ハンチョルを見かけたという者がいまして、だからその、ハンチョルが女性と連れ立ってウェディングドレスを選びに来ていたと。
翌朝、教えてもらった店に向かおうとアパートを出たハンスを、またもやソックァンが呼び止めました。
ソックァン)どこへ行かれるんですか? お乗りください。
助手席に乗せてもらったハンスは、ソックァンの手首に光る腕時計に気づきます。
ハンス)珍しいですね、その時計。
ソックァン)あ、ああ、これですか?
ハンス)ずいぶん稼いでいらっしゃるんですね。
ソックァン)こんなの、偽物ですよ、偽物。
ハンス)偽物にしては、まるで本物そっくりですね。
シャツの袖で腕時計を隠そうとするソックァン。
クム社長から着信があり、ハンスの気持ちは腕時計から逸れましたが、ソックァンは苦々しげにハンスの後姿を見ています。
ソックァン)あの野郎、目端が利くじゃねぇか
ドレスショップに着いたハンスは、ハンチョルと一緒にドレスを選んでいたという女性を呼び出してもらいました。
女性)遅れてすみません。接触事故を起こしちゃって。間違いなくアクセルを踏んだはずなのに、車が止まってしまったの。話には聞いていたけど、自分がやってしまうなんて。
女性)ところで、本当にハンチョルさんのお兄さん? じっくり見ても、ちっとも似てないのね。
ハンスと女性、二人同時に 「ハンチョルはどこにいる?」
二人はハンチョルと女性の新居にやってきました。
ハンス)つまり、、、ここが俺の弟のマンションだってことか? 君が婚約者で。 うわぁ、ゴルフクラブまでこんなに。
女性)お疲れでしたら、マッサージチェアでもどうぞ。お茶でも出しましょうか。コーヒーもありますよ。ご存知かどうか知りませんが・・・
まくしたてる女性に、ハンスはゴルフバックをひっくり返して怒りをぶつけます。
女性)きゃあ!
ハンス)お前、かもにする奴を間違えたよ。俺の弟はどこにいる?! 俺の弟はどこにいる?! 俺の弟はどこにいる?!
女性)もう、びっくりするじゃない。
ハンス)嘘をつくならもっとうまくつくんだな。弟は会社で首を切られたんだ。そんな奴が、こんな(高級)マンションに住めるわけがない。弟に何をした。
女性)何をおっしゃるんですか。
ハンス)何をおっしゃるんですか、だと?! 何をおっしゃるんですかぁ。いやぁ、こりゃ参った。
女性)ハンチョルさんは、お兄さんがこんな人だとは言ってなかったのに。怠け者でどうしようもなくて、何にもできないけど、それでも悪い人じゃないって。この世にたった一人の兄が、自分にはとても大切なんだって。
ハンス)ふうん。(まるで信じてない^^) ほっほっほ。そうか、そうか。本当だってことにしてやるよ。
ハンス)そうだとしたら、写真は? 写真。本当なら、二人で撮った写真ぐらいあるだろう。あるのか? あるか? ないだろう。あってもとっくに捨てたんだろう。さっさと弟を連れて来い!
勢いよく言ってみたものの、女性は少しも怯むそぶりをみせず、部屋の壁に飾ったフォトフレームをあごで指し示しました。
はい、しっかりと、結婚式の写真が飾られていましたよ。
ハンス)くそっ。。。すみませんでした。。。
女性)ところで、本当にハンチョルさんのお兄さんに間違いないの? 可哀想なハンチョルさん。あの時計も、お兄さんにもらったって、とても大事にしてたのに。知らなかったわ。こんなに非常識な人だったなんて。
ハンス)どんな時計?
女性はもう一度、結婚式の写真に目をやりました。
ハンス)ああ、あの時計。あの・・・時計?
そうです。ソックァンが腕にはめていた、あの、時計です!
楽園アパートに戻る道歩きながら、ハンスは女性の言葉を思い出しています。
女性)しょっちゅう出張に出かけてたけど、これほど長い期間連絡が取れないのは初めてで、もしかして浮気でもしたのかと。
ハンス)あの野郎。面白くなってきやがった。
楽園アパートに向かう坂道の下で、ソックァンのタクシーを待ち伏せたハンス。
走ってきたタクシーの前に飛び出して車を止めます。
飛び出してきたのがハンスだとは気づかず、怒って車から飛び出したソックァン。
ソックァン)おい、この野郎、気でも狂ったか。
相手がハンスだと気づき
ソックァン)あ、あれ? あなたでしたか。大丈夫ですか?
ハンス)何をそんなに。ああ。
ソックァン)え?
ハンス)けんかを吹っ掛ける人間は初めてですか?
ソックァン)え? え、ええ? どうなさったんですか。大丈夫でしたか?
ハンス)昔ね、弟に贈り物をしたことがあってね、何かわかりますか?
ソックァン)何のことだか・・・
ハンス)なんか変だと思ったんだよ。忙しいだろうに、二度もただで乗せてくれてさ。初めて会った人間をさ。
ソックァン)それは、その、ご近所さんだし、どうせその道を通るんだから。へへ。
ハンス)それにしても、どうして俺の顔色ばかり窺うんだ。昨日も、今日も。ほら、気にしてるじゃないか、今も。
ソックァン)私がですか? そ、そんなことありませんよ。
ハンス)それ、ちょっと見せてくださいよ。手首につけてるやつ、時計。
ソックァン)時計が、ど、どうしたんですか?
ハンス)要らぬ嘘をついたもんだ。高級品だって。偽物なのに。それを結婚式につけて出るだなんて、思いもしなかったよ。
ソックァン)ああ、ああ、こ、この時計ですか。違いますよ。こんなのありふれたもんですよ。
ハンス)いいや、それはなかなか手に入らないもんだよ。偽物でも。
ソックァン)違いますよ。
ハンス)そうだよ。
ハンス)内側にイニシャルを彫ってあるから、確認したらわかるよ。
ハンス)盗んだんだろう。弟の時計を。
ソックァン)わかりました。時計はお返しします。
と、観念したふりをして、ハンスを押しのけ、ソックァンが逃げ出しました。
逃げるソックァン。
追いかけるハンス。
取り逃してしまい、アパートに戻ってきたハンス。
叩いているのは201号室です。
ハンス)さっさと開けろ、この野郎。中にいるんだろう。警察を呼ぶぞ。
部屋の中に人の気配はなく、ドアノブを回してみるとドアが開きました。
じつはその時刻、ソックァンはまだ外にいて、別の誰かに追われていたのです。
狭い路地裏の、長い階段の上にたどり着いたソックァンですが、そこで待っていた誰かに階段から突き落とされてしまいました。