さて、いよいよクライマックスシーン。
監督が、「このシーンのためにこの映画を撮った」とおっしゃるほどのラストシーンに突入です
割れやすいように細工した鏡、だったのですが、それでもなかなか割れなかった、というトイレのシーンから、カン刑事が自分の机に向かいます。
ヨンウ 「こんなに長いシーケンス(ワンシーン)は、韓国映画ではほとんどありませんよね」
監督 「正確にはわかりませんが、ひとつの空間で二人の人物が対峙するシーンが20分以上続くというのは、たしかに珍しいと思います。だから私にとっても大きな冒険でした。これだけ長い時間、観客に緊張感を維持したまま観てもらうための方法をいろいろと考えました。セットにもずいぶん気を配りましたよ」
連続した20分のシーンですが、撮影には1週間ほどかかったそうです。
監督 「二人の息が合わないといけない、それが何より重要なシーンですが、いかがでしたか?」
ヨンウ 「ミンさんが、どうにかして僕を食おうとしてきて恐怖を覚えるほどでした。怖い俳優だなって」
ミン (笑)
ミン 「私としては、息はぴったりだったと思っています。先輩に対して失礼にあたりやしないかと撮影前にはいろいろ心配もしましたが、いざ始まってみるととても息が合っていたと」
監督 「感情を表現するのが難しいシーンだったと思うのに、お二人ともほとんどNGを出しませんでしたよね。一度撮った映像を確認しながら、演技に納得がいかないと、お二人の希望で撮り直すことはありましたが、NGはありませんでした」
監督 「ええ。女性の口元のホクロ、回想シーンをカットしたためにつながりが見えないのですが、カン刑事が持ち続けている幼少期のトラウマを暗示しています」
ヨンウ 「カン刑事の母親ですね」
監督 「二人の呼吸がぴったりと調和している部分です。カン刑事が笑うとミヌが泣く」
監督 「どんどんエスカレーションしていく感情の起伏を演じるのは難しくありませんでしたか?」
ヨンウ 「このシーケンスだけで一編の作品だと考えて演じました。台本の順番通りに撮影してくださったので、特に難しいとは思いませんでした」
ここで一瞬、カメラが部屋の外に出ます。
監督 「カメラが部屋の外の風景を映して、また室内に戻ってくる、その一瞬を境に二人の気持ちや表情が少しずつ変化してく。私の期待以上の演技を見せてくださったと思っています」
監督 「このシーンを撮るときに、ミンさんは私に質問しましたよね。僕は人間として演じればいいのか、幽霊とか妖怪とか、この世に存在しないものとして演じるべきなのかって。最後の瞬間まで、ミヌとして人間として演じてくれればいい、と答えながら、私自身も確信は持てずにいました」
『犯人には重苦しい愛だな』
このセリフに深い意味が込められている、と言います。
(「重苦しい」という訳が軽すぎるので(反語みたいですが)伝わりにくいですが、迷惑千万な愛とか、ひたすら重荷でしかない愛、とかいうのがもう少し近いかもしれません)
ミヌが言いたかった、カン刑事が弁明したかった、自分自身の立場を表している、のだそうです。
監督 「ここから、カメラのアングルが変わります。少しローアングルで、しかも水平を取っていません。二人の立場が逆転し、激しく心が葛藤しているのを表現したいと思ったのです」
ヨンウ 「観るほどに恐怖を覚えます。理性とは言えないのでしょうが、ひとりの人間がこれほど深く自責の念に苦しむこと自体が、、、レイプを美化しているという意見をたくさん聞きましたが、、、万が一そういう部分があったとしたら、こういう部分をこんなに時間をかけて映さなかっただろうと思うし、観るたびにこのシーンは、自分自身の感情や感覚が・・・・」
(映像を観ながらお話されているので、気が逸れてまとまらなくなってしまったようですが ( ´艸`) 要するに、この映画はレイプという犯罪を美化してなんかいない、ということがおっしゃりたかったのだと思います)
監督 「さあ、ここでほとんどの方はカン刑事とミヌが同一人物であることに気づきますね」
(さて、一番最初に観たとき、私はいつそのことに気づいたかしら??? 思い出せない(。>0<。)
ミン 「さっきも言いましたが、私は殴られる演技は(得意なんですよ)」
監督・ヨンウ (笑)
ミン 「このシーンも1回でOKが出たでしょ」
ヨンウ 「このあたりのシーンはカメラ2台で撮りましたよね」
監督 「感情の変化がとても重要なシーンなので、最初からカメラを2台用意しました」
ヨンウ 「おかげでとても演じやすかったです」
ミン 「そうでしたね。2台のカメラが回っているから、ほとんどのカットが1回目でOKになったのを覚えています」
(カン刑事とミンをそれぞれ正面から捉えるカメラがあった、という意味でしょうか)
監督 「ここで交わされるカン刑事とミヌのセリフはとても重要で、この作品がレイプ犯罪をどう考えているか、二人のセリフをしっかりと聞いていただければわかると思うのですが、監督として私が未熟だったせいもあり、二人が同一人物なのか? ということにばかり観客の関心が向いてしまったのではないか、(だから作品の意図が誤解されるのではないか)と考えると、残念でなりません」
ヨンウ 「最初はそうだとしても、後々思い出して作品を消化していく過程で、多くの人がたくさんの意味に気づいてくださると信じています。また、繰り返しご覧になってくださるなら、単純な二人の対決というふうには捉えないで、もっと多くの意図を感じ取ってほしいものです」
監督 「この映像を観た人は、ナングン・ミンさんがどうしてこんなにも憎たらしい演技が上手いんだと・・・」
ミン 「スクリプトをされた方も酒の席でおっしゃっていました。殴ってやりたかったと(笑)」
ヨンウ 「もしもスヨンが、この場面を目撃したとしたらどうするだろう?」
ヨンウ 「一人で泣きわめいて大騒ぎしてるんだから、気が狂ったと思うかな?(笑)」
ジヘ 「いえ、私はこの場面のカン刑事があまりに可愛そうで、なんとかしてカン刑事を許すことはできないものかと考えていました」
監督 「カメラが360度回転しながら、外の景色を見せたのは、警察署の中に閉じ込められた状態のカン刑事が、自分の頭を打ち抜く前に、息の詰まる空間から解放される、ついにそこから飛び出してゆけるという幻想的な部分を描きたかったというのもあります。削除された中に、ミヌが幼少期のカン刑事を抱きしめるシーンがあったのですが、なくしてしまったのは少し残念ですね」
監督 「カン刑事の死後、作品をどのように締めくくるかについてはずいぶん悩んだのですが、カン刑事の死を、誰かひとりぐらいは同情し、少しでも理解してくれる人がいなければいけないと思ったのでこういうふうにしました」
監督 「そうでしたね。このシーンは、カン刑事が死ぬ直前の出来事と捉えてもらってもいいし、死んだ後、霊魂が尋ねてきたと考えてもらってもいいと思っています」
ジヘ 「私はじっと寝ているだけですが、心の中は非常に激しく揺すぶられていました」
監督 「スヨンの涙も、許しを意味している可能性もあるし、長い年月意識を失っていた自分に対する悔恨かもしれないし、それはどのように解釈してもらっても構わないのです。監督として、こうでなければならないとは思っておらず、むしろ観客に質問を投げかけて考えてもらいたい部分です」
エンドロールのバックには、カン刑事とスヨンが、最も幸せだった時期の映像が流れます。
監督 「作品を通して楽しい場面がほとんどなく、重い気持ちで撮影していましたが、水遊びのシーンを撮ったときだけは、スタッフもみなこぞって水に入り楽しみましたね」
(このお写真の時ですね )
ヨンウ 「覚えています。 どんな作品をやっても、撮り終えるとホッとすると同時に一抹の寂しさを感じますが、この作品は特に、先々まで記憶に残ると思います」
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