辛いばかりの生計手段だった演技、今は
スピード感と観客の耳目を惹きつけるような強烈な印象を与える作品ばかりが続く韓国映画界において、ひと味違う 『春』 は、明らかにその存在自体に意味のある作品。パク・ヨンウが、まさにその 『春』 に似ていたと言えば大げさだろうか。
1年以上も前に撮影した作品だが、配給を引き受けてくれる会社がみつからず、劇場公開されないのではと気を揉んできた。
パク・ヨンウとしては、すでに2012年に、ある作品がクランク・イン直前に霧散した経験があるため、十分に理解できる心配だ。
幸いにも 『春』 は配給社が確定し、11月20日から公開されている。まじめに実績を積んできた彼のような役者でさえ、こんな憂き目にあうのだ。もっとラクな道もあろうものを妥協を許さない性格のせいもあるだろう。
『春』 という作品で1960年代を背景に、中風(じゃないけどbyハギ)を患った著名な彫刻家ジュング人生を演じようと決めたのも、興行面での成功やイメージ・チェンジを狙う以前に、「なぜかしら興味をそそり美しい作品になりそうな気がしたから」だ。
『春』 はまさに、人間の感情に対する隠し絵さがし
「どえほど時代が変わり科学が発展しても変わらないものがあります。そのうちの一つが道徳、別の言葉で言えば良心でしょう。教育を通して強まることもありますが、みな生まれながらに持っていると思います。私はそう信じます。『春』 では、そういうものを発見できるでしょう。人柄、あるいは感情というべきでしょうか」
彼は、最近出演したSBSの 『食事は済みましたか?』 に映画をなぞらえる。
「料理研究家 イム・ジホ先生と一緒に出演しました。先生は化学調味料を一切お使いにならないので料理には苦味が残ります。苦いのですが不思議と美味しいのです。そんなふうに人生も、苦味を覚えることで甘さを感じられるようになるのではないでしょうか」
中風に罹ったジュングを物心両面で支える妻ジョンスクと、貧困と家庭内暴力に疲れ果てジュングのヌードモデルとなるミンギョンは悲惨で不幸な人生を歩んでいると言うこともできるが、ジュングを中心に、また違った人生の意味を見つけてゆくのだ。
パク・ヨンウの言葉どおり、一方で辛く苦しい人生を経験するが、共感しつつ見ていると人生の本当の素晴らしさを感じさせるキャラクターである。
パク・ヨンウは、共演したキム・ソヒョンについて
「(ドラマでは気の強い役を演じてこられたので)心の内では偏見を持っていました。が、むしろ、だからこそしっかりと、お互いの感情を出し合えた」のだと語った。
新人のイ・ユヨンについても
「最大限配慮したつもり」だと言う。
「偏見が逆に上手く作用して、ソヒョンさんとの掛け合い(夫婦としてのやるせない)感情が、究極まで引き出せました。当然、彼女にもいろんな面があるのに、これまではそれを見せるチャンスがなかっただけなのです。ユヨンさんは、これまでどんな経験をしてきたのか知りませんが、まだまだ新人で若いので気楽に接しようとしました。それでも大変な撮影だったと思いますよ。観客のみなさんがジュングとジョンスク、そしてミンギョンを通してどんな感情に気づかれるか気になります。破廉恥なストーリーに流される可能性もありましたが、3人の間に友情と愛情が行き交い関係を深めていきます。感情の隠し絵さがしとでも考えていただけば、一層楽しんでいただけるでしょう」
本物の休息を見つけたパク・ヨンウ 「寂しさを感じる暇もない」
『春』 の撮影後、パク・ヨンウは、「生きる姿勢が少し変わった」と言う。
映画の全体的な雰囲気のように、彼も冷静に当時を過ごし、その後約7か月間、ただただ自分のための時間を持った。趣味で叩いてきたドラムも本格的なレッスンを受け、読みたかった本を取り出し、スポーツジムにも毎日通った。
「周りは私が連絡をしないので、潜ってしまったと思われたほどです。心配してくれる方もいました。以前であれば、友達を失うかもしれない、忘れられてしまうかもしれない、関係が切れれば仕事をもらえないのではと、無理をしてでも酒宴の席には出ていたでしょう。もちろん、それが全く無意味な時間ではありませんが、自分のためだけに過ごす時間も必要だと気づいたのです。充電はこうやってやるんだって知りました。寂しさを感じる暇もなかった。本当に(笑)」
時事教養と芸能プログラムの性格を併せ持つ 『食事は済みましたか?』 に出演したのも、変化の延長線だろうか。
「今でもこういう番組に出るのは演技するよりエライのですが、せっかくやろうと決めたことは、わざとらしいうわべだけのことはせず、感じるままに表現しようと思います」
10年以上前の、芸能プログラムに出演したときのことを思い出し、
「これまでの僕なら、できるだけ放送局の要求に合わせようとしたはず」だと付け加えた。
『食事は済みましたか?』 の中で彼は、演技に対する自分の想いを口にした。
「20代のときは演じるのが辛かった。30代では生計手段。今は楽しみ」だというのがその要旨だ。パク・ヨンウは、その言葉の真の意味を、より詳しく説明してくれた。

「いつまで経っても楽に演じることなんてできないように思います。ただ、やっと今、楽しめるようになった、まだ最初の段階だってことです。よく言えば、30代の頃は情熱を注ぎました。どんなに情熱を注いだって変えられるはずのないものまで変えようともがいていたように思います。今は、一生懸命やっても変わらないものは放っておこうという気持ちです。僕ができるところで成果をみつけようってことです。だから、楽しむというところでは、まだスタート段階なんです。もちろん、次のステップで、これが崩れ落ちることだってあり得ますよ。でも、そこから得るものだってきっとあるから、一段と成長できるでしょう」
『春』 行こう、パク・ヨンウは、2部作ドラマ 『こいつ』 を通して視聴者の前に立つ。自信を露わに抱負を語ってもよさそうなのに、「敢えて言えば」という修飾語を付けて答えた。
「やっと楽しみながら演じられるようになったスタート地点で、視聴者のみなさんに、敢えてご覧いただきたいと言える作品です。『春』 もそうだし、その後のドラマも。この道に入って20年間悩み続けてきたことが、だんだんと具体化されてきています。希望があって、確信をもてる端緒があれば、(根気強く)悩むことも大きな意味があると思います」
2年前のパク・ヨンウは、「恋愛においてだけは分別くさくなりたくない」と言い、「演技においてはマンネリ化しない」と、本紙とのインタビューで語った。その悩みは依然として有効で、彼の言葉どおり、より具体的になっていた。
それだけ彼は、誠実に自分の人生を歩んでいるのだ。
(訳文文責:ハギ)
下から2枚のお写真がむちゃくちゃ素敵です。
みなさん、『食事は済みましたか?』 の内容が気になっていらっしゃいますよね。
解説を急ぎますね。ごめんなさい m(_ _)m