そして迎えた、Xデー当日。
雲ひとつない快晴の土曜日。
「さやか、準備できたか? 遅れると親父の機嫌が悪くなるぞ」
玄関で、オーダーメイドのスーツに身を包んだ勇樹が急かしてくる。
今日の彼は、いつものモラハラ夫ではない。
外面の良い、完璧な「エリート息子」の顔だ。
「はい、お待たせしました」
私は淡いピンク色の訪問着に袖を通し、しとやかに微笑んだ。
鏡に映る自分は、どこからどう見ても「従順で幸せな妻」に見えるだろう。
(今日があなたの命日よ、勇樹)
心の中でそう呟き、私はバッグの中に忍ばせた「黒いUSBメモリ」の感触を確かめた。
会場は、市内でも有名な老舗料亭の大広間。
勇樹の親戚一同、総勢30名ほどが集まっていた。
「いやぁ、勇樹くん。また出世したんだって? 鼻が高いよ」
「いえいえ、叔父さんほどではありませんよ。ハハハ!」
主役である義父の隣で、勇樹は上機嫌でビールを注いで回っている。
親戚たちからの称賛を浴び、自分がこの場の「自慢の種」であることを疑っていない。
その姿が滑稽で、私は笑いをこらえるのに必死だった。
(あと1時間もすれば、その笑顔が能面みたいに凍りつくのね)
宴もたけなわになった頃。
私はそっと席を立ち、会場の隅に設置されたプロジェクターの前へ移動した。
本来なら、ここで勇樹が作った「家族の思い出スライドショー」が流れる予定だ。
私は周囲の目を盗み、プロジェクターに繋がっているノートPCのケーブルを抜き、
持参した自分のPCに差し替えた。
そして、あのUSBメモリを接続する。
カチッ。
小さな音が、私の耳には爆音のように響いた。
手元のスマホが震える。
蒼くんからのメッセージだ。
『準備完了? こっちはいつでもOKだよ』
蒼くんは今、会場近くのカフェで待機してくれている。
何かあった時のための「保険」だ。
『ええ、完璧よ』
私は短く返信し、スマホをしまった。
深呼吸を一つ。
さぁ、ショータイムの始まりだ。
私はマイクを手に取り、会場全員が注目する中、一番華やかな笑顔でこう言った。
「皆様、本日はお義父様の古希、誠におめでとうございます。
私から、ささやかではございますが、お祝いのムービーを作らせていただきました」
会場から温かい拍手が起こる。
勇樹も満足げに頷いている。
私はPCのエンターキーに指をかけた。
(見ていてね、蒼くん。私たちが作った最高傑作を)
次の瞬間、巨大なスクリーンに映し出されたのは、
家族の笑顔の写真……ではなかった。
つづく
何も知らない親戚たちの拍手。
外面の良い夫の満足げな顔。
嵐の前の静けさが、残酷な結末を引き立てます。
次回、ついに「あの写真」がスクリーンに。
会場が凍りつく瞬間、夫は、義父は、どんな反応を見せるのか。
第1章完結、衝撃の修羅場回です。
これ続けてますが今のところ5キロ減ってきました!
本当におすすめですよ!
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【第11話】古希祝いのスクリーンに映ったもの
