地雷なし
さて、宿泊先を押さえたことを、どう悟へ伝えよう。
当日まで黙っているべきだろうか?
いや、万が一、彼もどこ かを予約していたとしたら?
・・・悲しいかな、お互いに掛け捨てられない年齢。
この期に及んでも、こちらから“おとまり”を切り出すのは、はしたないと感じてしまうのが女心。
そう、だから泊まるにしろ日帰りにしろ、そういうケアは男性側がすべきことのはず。
今までならば、そんなスマートさを欠く男なんて、はいそこでゲームオーバー。
浮気云々については恐ろしく寛大な割に、男道というか男性の在り方に対しては、自他共に認める地雷の多い女なのだ。
しかしながら、「年下」という武器は、見えない地雷にも負けない強靭さだと知った。
すべての物足りなさが「年下だから仕方がない」の一言で許されてしまうのだから。
あまり考えずにストレート伝えよう。
<土曜日、帝国予約してあるから。>
返信なし。
悟の思考回路はどう回っているのだろう?
翌朝届いたメールは、「ああやっぱりね、そう来たか」という内容だった。
ぽろぽろ
しかも高校生の頃に、夜遊びに疲れ四人で寝に入ったのが最初で最後・・・。
「そうか。ずっと一人暮らしだからなのね。」と続くのがパターンなのだけれど、そういうわけでも、ない。
潔癖性でなくとも、一人暮らしのワンルームでそういうことを楽しむことに抵抗があるのだ。
だから贅沢にも、相手の部屋以外は、ほぼシティホテル。
それが当たり前に出来る人としか・・・なんてこれまた偉そうだけれど実際いつもそうだった。
今週末の大阪ステイはどうなるのだろうと気になっている。
悟は寮暮らし。彼がのホテルを押さえているとは考え難い。
とすると・・・二度目を経験しちゃうということ?!
いやだいやだ、それはいや!!
頭をブンブン振りながら、ネットで大阪のホテルを検索。
懐かしいホテルたちが画面上に並ぶと、かつての良き想い出たちも心にズラッと比例する。
中にはチクりとすることもあったりして。
よぉ~し!ちょっと奮発してここに決めちゃえ!
選んだ先は、大阪帝国ホテル。千鳥格子の落ち着いたインテリアがとても好きだった想い出の場所。
デリカシーもへったくれもあったもんじゃない?
女の想い出は、上書きされるでなく、重ね書されるもので、いくら重ねても消えていったりはしないのだ。
良いこと然り、悪いこと例外。
私だけ?かな?
本音と建前(自分用)
何度か電話をもらううちに気づいたことのひとつ。悟には彼女がいる。
男ってのは気づかれていることに気がつかない生き物なのだろうか?
隠したってバレバレですから~。
カノジョモチ?
そうとはわかっていても、楽しいものは楽しい。
悟の無邪気さに便乗して、「かわいい自分」でいられることが楽しいのだ。
偉そうだけれど・・・“一段降りて”合わせて“あげてる”自分がいる。
「それで本当に楽しいわけ?」と訝しむ友達を尻目に、
今が楽しいからいいじゃない?!という恋愛スタイルを貫く私。
“いまのところ楽しい”うちに週末デートを取り付け、翌週すぐ大阪へ。
「大阪で会おうよ!」と言った自分に若干の虚しさを感じるのは否めない。
ホームの京都じゃ、イロイロと困らせることもあるだろうから、という建前と、
ホームの京都じゃ、オッケーをもらえないかもという、弱気な本音。
なにやってんだ、わたし。
トゥルルルル
いまどき珍しい着信音で、携帯が鳴る。
はいっ、きた!「“昨日はどうも”電話」。
この時点で、ちょっぴりホッとする。
ただのオイタ相手だと思われていなかったことにホッとする。
隆司の会社の後輩である悟は、私より一つ下の24歳。
とてもキレイな男の子だ。
子だ。
「そんな年下扱いするなよー。ひとつしか変わらないじゃん?」って君ね~。
その一言が、さらに子ども扱いを加速させると分かっていないあたりが子どもなのよ。
「そうだよね、女性のほうが10は精神年齢が上って言うしね。」くらい言えんのかっ!
あーこれだから若者ってめんどくさい。
そうなってサヨナラするのが常なのに・・・あれれれれ?
もどかしいはずの悟のペースが徐々に心地よくなっていく。
何度か電話を貰ううちに、ひとつふたつと階段を降り、同じ踊り場で楽しんでいる自分がいた。
おしえて山田くん
とびます
との
「あんたね、先にありがとうでしょう!まったくも~ブツブツブツ」
「とか言いながらも来てくれてるじゃん。優しいねぇ。いつもながら真穂のフットワークの良さには尊敬するよ。」
なにっ?それじゃまるで都合のいい女みたいじゃない。腰が軽いみたいじゃない。なんて紙一重な誉め方なのよ。
「で、本日の王子は?」
「先に席にいるよ。おまえ、マジビビるぞ。俺も彼女の美しさにマジビビってるけど~。なにちゃん?」
きょうと
大好きな街、京都。
学生時代4年間で飽き足らず、Uターン後1年もワンルームを借り続けていたほどの執着ぶりだ。さすがに実家を出るときに渋々諦めたのだけれども。
午後8時、四条河原町の阪急百貨店前。ベタな待ち合わせスポットのひとつだ。キャッチのお兄ちゃんを振り払うのに必死だった頃が懐かしい。声を掛けられなくなったのはいつからだっけ?
「真穂ちゃ~ん!久しぶりやなぁ!」
「ごめんね、急なお誘いで。」
「構わへんよ。うち、今晩ちょうど暇やったし。」
金曜の夜に予定もないなんて寂しい女?いやいやいや、彼女の彼は俳優K。“電撃結婚!お相手は京都在住の美人秘書!”と熱愛報道される日も間近なんだろうなぁ。
隆司からの頼まれ事は、
「今晩、一緒にひと仕事終わらせた後輩の慰労会をやってやろうと思って。やっぱさ、そういう席にはイイ女が必要不可欠だろ?で、真穂にお願いしたいわけよ。誰かイイかんじの友達も誘ってよろしくっ!!うちの後輩もかなりの男前だしさ。絶対に損はさせないから。なっ!頼む!」
てな理由で、悪友隆司の顔を立てるべく遥々・・・いや、ノコノコ京都へやってきたのだ。
“女の子は、自分より可愛い子を連れて来ない” だなーんて、何処のしょーもない男が言い出したんだろう?変な女を連れて来やがって?それが君相当だという判断からのことなのよ。いいオトコ共のお誘いには、こちらも万全を期して人選するもの。今日は最上級よ、文句あるっ??!
と、声を小にしてしか言えない、仕事でくたびれたこの姿・・・。私の穴を補填してもまだ余る絵理子の美しさとが眩しすぎる。同じミスコンのタスキを掛けていたとは思い難い女っぷりの差は何なのよ~。がんばれわたし!気合だぁー!!
近況をちょろっと交換しながら歩くうちに、約束の店へ到着。
さて、「かなりの男前」君は如何程か!?
ことのはじまりは
大阪出張からの帰りの道、くたばった私の元へメールが届く。
この上なく気が合い、尚且つ最大のライバルである男友達、隆司からだ。
(オンタイムになんて珍しいなぁ、なんだろう?)と開いたメール。
<おまえ今晩、京都来いよ>という、お誘いだか命令だか定かでない2行。なんだこれ?
<急にどういうことよ?>と返した直後に携帯が鳴る。隆司からの電話だ。
カクカクシカジカというわけで、今晩8時に京都でメシを食おうって?なるほど、事情は把握した。
でもさぁ、私の平均終業時間を知ってるでしょう?短い針が右に傾き出す頃なのよ!8時に京都だなんて無謀だわ!
な~んて一応喚きはするものの、午後7時、ちゃっかり名古屋駅のホームにいる自分・・・。
本日二度目、大阪行きの“のぞみ”に乗る。
「やり残し強行退散」の行く末は、神のみぞ知る。ひょえっ。
はじまりはじまり
<事故に遭っちゃった>
詳しくいうと、交差点を横断中、凄い勢いで前方から曲がってきた車のドアミラーにバッグの端がかすった程度なのだけれども。いや、それでも、とっさのあの2・3歩があっての被害なのだから、携帯メールでも打ちながら渡っていた日には・・・考えるだけでゾッとする。
あ~あ、お気に入りのハラコちゃんの毛波が逆流してる。。
なんてことに傷心しながらも「私、大変な目に遭ったのよ!心配してくれるよね!電話くれるよね!」という下心バレバレなメールを、あの子へ送信している自分がいる。
事故後4時間が経過。
むむむ。未だ返信なし。
そうよね。土曜の深夜。デート中に決まってる。
仕方ない、と私は呑み込むしかないのだから。
好きな彼には彼女がいる。
