この先すずの妄想です。

翔ちゃんとかずくんはラブラブ。大丈夫な方はどうぞお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

そのワゴンへの地図なら簡単。

緩くカーブした石畳のメインストリート。
ふたつ目の角を左に曲がって、木のブランコの公園を過ぎたらもう一度左へ。そこからは狭い路地になるのだけれど、やがて右手に現れる小枝のような細い小路を見逃さないで?
それをまっすぐと進めば、小さな円い広場が見えてくるから。





「もうサンタさんはいないんだね。」


今年も広場の丸い空を覆った金色に輝く光のベールを見上げて、かずが、ほぅっと白い息を吐いた。

確かに。

つい数日前の夜には、喜び溢れるトナカイが引くソリに乗って、この星空をかけていたサンタクロース。

コーヒーケトルを巧みに操りながら、マスターは伏し目がちに微笑む。


「そうですね。今頃はきっと北の国に帰り着いて、あたたかい暖炉の前でのんびり…もしかしたらもう次の準備を始めているかも知れません。」


「んふふ…大仕事だもんね。」


かずはそのこたえに満足そうに笑った。

手元に押し出された赤いマグを引き寄せて、尖らせた上唇をそっと寄せる。

そんな何でもない仕草が未だに可愛らしく思えて見とれていれぱ、


「お待たせしました。」


一寸遅れて俺の手元へも、クリーム色のマグが差し出された。


「おっ、ありがとう。」


きめ細かなミルクの泡。口元に寄せれば甘い香りが一気に俺を包む。

それは隣のきみにも似て、ひと口飲み下せば、俺はまたかずを見つめるのだった。


「うまぁい。」


ダウンから覗く丸い指先。
香ばしいコーヒーに温まったのだろうか。
白い頬には、絵の具をひと粒落としたように、ほんのりと紅が広がる。


おそらく今年最後の1杯。
だからなのか、今夜のラテは格別に甘く優しく、含む度に広場でのかずとのしあわせな場面を俺に思い出させた。


今年も色んなことがあったね。
喧嘩もしたね。
だけどきみがそばに居てくれて、俺はとてもしあわせだった。


横に並んだ薄い肩。
きみもきっと同じことを考えている。
そんな気がした。





コトン…


やがて赤いマグが、かずの手からカウンターに戻ったのを合図に、コートの袖口からちらっと時計を覗けば、針は明日へのカウントダウンを始めていた。



そろそろ帰ろうか。



そう心の中で語りかけ交わした視線。
かずは飴色の瞳を一瞬揺らした。


また明日も会える。
けれど、きみは別れ際の寂しさにいつになっても慣れなくて。
それは俺も同じことで。


だったらさ。
帰ろうか。
今夜は同じ部屋へ。



俺はカウンターの下、かずの指に指を絡めた。



「マスター、良いお年を。」


俺が立ち上がれば、かずも腰高のスツールからするりと降りて、


「また来年ね〜」


と、明るく笑った。






広場の中程にさしかかれば、おれは心細げに引っ掛かるかずの指を手繰り寄せ、握りしめる。


店はどこも戸を閉ざし、明日のために静かに眠っていた。


「かず。」

きみの足取りは捗らなくて。

「うん。」

返す声は、今にも駄々を捏ねそうで。

でも俺は、きみが足を止めて乞うてくれるのを、それを待てないほどきみが好き。



「帰ったらさ、背中掻いて?」

笑えば、

「え?」

きょとんとした顔してさ、

「さっきから痒くって。」

背中を捩って見せれば、

「んふふ…いいよっ。」

笑い声は、綿雪のように軽やかに舞った。




そのワゴンへの地図なら簡単。
あなたもいつか訪れて?

必ずしあわせを持ち帰らせてくれるから。


 

 

fin 

 

 

 

 

 

今年も一年間ありがとうございました。

 

今日という特別な日を、

ここで出逢えたたくさんの方々と

越えられることに感謝します。

 

翔さんが、

「いざ、共に!」と言ってくれた未来は、

今日で終わるはずはないから。

少なくともすずはそう信じているから。

 

笑顔で2020から2021

 

みなさまの上に

佳き年が訪れますように

 

そして来年からも

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

2020.12.31

 

涼風