時間は流れ。
夕食の時間も過ぎ。
映画鑑賞の時間となった。

「結局、帰って来なかったね」

美恵ちゃんがつぶやく。

「うん。もう夕食の時間も終わって映画鑑賞の時間になってるのにね」
「うん・・・」

たしかに。
誰に聞いてもあれからの広瀬くんと尚希くんを見た人はいなかった。

夕食も食べに来なかったし。

先生はその事を知り。
自然の家の付近を捜しているけど。
まだ見つかっていないみたい。

そうそう。
神田くんね。
熱が38.8度あったの。
なのに、先生に言わないで無理にハイキングに行ってたから。
倒れちゃったってわけ。

先生がキャンプファイヤーにも肝試しにもだれないって。
どうして無理してハイキング行ったんだろう。
あたしにはわからない。

パッ。
部屋の明かりが消え。
映が始まる。

あたしの席の右には尚希くんが座るはずの席も。
ポッカリと空間を作っている。

左側の席もそう。
広瀬くんが座る席のはずだった。
でも。
左右どちらを見ても空間が開いている。

結局、映画が終わっても帰ってこず。

ついには、キャンプファイヤーの時間になってしまった。

あたしたちはまず、体育館へと向かう。
端の方で誰か二人座っている。

目を細め、良く見ると。

そこには広瀬くんと尚希くんが座っていた。

「美恵ちゃん!広瀬くんがあそこに座ってるよ!」
「えっ?」

あたしが座っている所を指さす。

「本当だ。広瀬くんだ」
「一体どこに行ってたんだろうね」
「本当だよ。あとで聞き出してやるんだから!」

美恵ちゃんがはしゃいでる。

ザワザワと次々に体育館へと人が入っていく。
あたしたちが入ってくるのに気付くと、広瀬くんたちがこちらに気付き。
こちらに向かって歩いてきた。

「いやー!俺達トイレすげー長いから」

頭をかきながらごまかしてる。

「嘘ばっかり!あたし、凄く心配しちゃったんだからね!」

美恵ちゃんが半泣きの顔で言うと。
尚希くんが慌てて。

「ごめんな。心配かけちゃって」

尚希くんの口から思ってもいない言葉が出てきて。
あたしったら、唖然。

まさか、尚希くんから真剣な顔でこんなこと言われるなんて
思ってもいなかったから。

尚希くん。
本当に反省しているみたい。
それに変わって広瀬くんは。

全然反省の顔をしてなかった。

「どこ行ってたよ!」

美恵ちゃんが深く追求する。

「ん?だから、トイレ」

まだシラを切ってる。

「嘘つき!本当の事言って!」
「わかったよ、後で言うから」
「本当に?」
「本当に」
「・・・わかった。後でちゃんと聞くからね」
「わかったってば」
「おいっ!」

尚希くんが焦ったように割り込む。

「広瀬、お前、本当に言うのかよ」
「おう。こんなに追求されたら、言うしかないだろ」
「まぁ、広瀬の問題だから俺はどっちでもいいけどさ」
「ねぇ、尚希くん」

あたしは尚希くんに問いかける。

「恵利菜ちゃん、どうしたの?」
「あたしにも、教えて?」
「えっ、教えるの?」
「うん。教えて?」
「広瀬、教えてもいいのか?」

尚希くんが広瀬くんに聞く。

「うーん。だめ」
「どうしてーー」
「今は教えられないんだ。時期が来たら、俺から話すよ」
「えーーー」
「と、言うわけなんだ。ごめんね、恵利菜ちゃん」

尚希くんがごめんねポーズしながらあたしに言う。

「ううん。広瀬くんがそういうなら仕方ないし・・・」

でも。
正直言うと。
がっくり。

美恵ちゃんだけが聞けるとか。
いいなぁ。

どんなことだったんだろう。

そうだ。
後から美恵ちゃんから聞けばいいんだ。

「静かにー」
先生の掛け声と共に、ざわめきが少しずつなくなっていった。
静かになると、先生はキャンプファイヤーでの注意などを話し始めた。

「恵利菜ちゃん」

横にいる尚希くんが話しかけてきた。

「あのさ、俺達さっきまで自分達の部屋にいたんだよ」
「えっ?でも、それは夕食の時と映画鑑賞の時間の事でしょ?」
「うん。そうだけど」
「その前はどこにいたの?」
「その前かい?その前はトイレにいたよ。でも、先生がそこには
 探しに来なかったから見つからなかったんだ」
「そうだったの」
「うん。それだけは教えとくね」
「それだけでも、教えてくれて嬉しい。ありがとう」

「全体、起立!」

先生の声が体育館中に響き、あたしたちの会話を切り裂く。

ガサササ。
みんなが立ち上がる。
あたしは、みんなより少し遅れて立った。

「後ろから出発しなさい」

先生の号令と共に、みんなが動き出す。
あたしたちも、その波に乗ってキャンプファイヤー場へと移動する。

尚希くんとの話はそこで中断されてしまった。

ここまでの話をつなぎ合わせてみると・・・
急に真剣な表情になった原因は、あの白い手紙からだよね。

そして、話の内容からあの白い手紙は広瀬くん宛てのラブレター。
と、考えられる。

でも、問題はどうして尚希くんに手渡されたか。
だよね。

しかも。
尚希くんは広瀬くん宛てと知っていた。
そうでなければあの時のプレゼントと一緒で手紙を見せなかったはず。

気になるのが。
どうしてプレゼントは広瀬くんに渡らなかったのか。

もし山下さんが渡したプレゼントと手紙なら、広瀬くんに渡すはず。
でも尚希くんのかばんに今もプレゼントは入ったまま。

一体、あの手紙はいつから尚希くんが持っていたものなんだろう。
山下さんが渡した手紙じゃないのかな?

あーもう。
ダメで元々。
あとで尚希くんに聞いてみよう。

・・・
そんな事を考えていると。
あっという間にキャンプファイヤー場へ到着した。

みんなが炎を囲むかのようにして円に座る。

あたしの右には美恵ちゃん。
その美恵ちゃんの右には広瀬くん。

あたしの左には尚希くんと・・・
その隣には生憎なことに山下さんがいる。

尚希くんの隣が山下さんじゃ、尚希くんと話すこと出来ないよ。

。。。
そういえば。
山下さんってあの時、尚希くんに告白したのかなぁ。

それとも、ただプレゼントを渡しただけ?
どちらにしても。
山下さんがこんな大胆な事する人とは思わなかった。

オリエンテーション先まで来て告白とか。。。
せめて、オリエンテーション後にしてくれたら今だって尚希くんと
話しやすいのに。

まぁ、これはあたしの願望なんだけどね。


パチパチパチパチ。
メラメラと火花が飛び散る。

「わぁー。綺麗。ねぇ、見てみて」

山下さんが尚希くんに話かける。
すると、尚希くんが。

「ああ、綺麗だね。星も見えているし」

ズキン。
尚希くんの声に反応して、あたしの胸がキュンと痛む。

あたしったら。
山下さんに影響されていたらダメ!
もう、山下さんがいても関係ない!

あたしは勇気を出して。

「尚希くん!」

強く呼びかけた。

「ん?どうしたの?」
「あのさ、さっきの話の質問したいんだけど、良い?」
「まぁ、話せる限りね」
「うん」

あたしは山下さんの方を見る。
都合のいいことに、山下さんはキャンプファイヤーに見とれていた。
今がチャンス!

「あのね、あの白い手紙の事なんだけど」
「ああ、あれね。あの手紙の内容なら答えられないよ」
「そうじゃなくて」
「?じゃあなに?」
「あの手紙、人からもらったものでしょ?」
「うん。そうだけど」
「いつから持ってたもの?」
「あれかい?あれは昨日からかな」
「昨日の、いつ?」
「何でそんな事を聞くの?まさかその現場を見てた?」
「いや、見ていなかったけど。どうしても教えてほしいの」
「ふぅん。あれは昨日のバスの中で渡されたんだ」
「昨日のバスの中?ということは、この自然の家に来るときのバス・・・だよね?」
「ああ、そうだよ」
「そっか。ありがと」

尚希くんが少しため息をついた後。

「?あのさぁ」
「うん」
「出来ればさ、あまり拘わらないでほしいんだけど」
「どうして?」
「どうしても。相手も傷づくだろうし」
「そっか、ありがと。教えてくれて」
「俺に礼言ったって何もならないけどね」

そっか。
手紙を手にしたのは、来る途中のバスの中。

もし、あの手紙が広瀬くんへの告白の手紙だったとすれば。
自然の家についてからでも、直ぐに広瀬くんへ渡せたはず。

でも、あの手紙を広瀬くんに渡したのは次の日の朝だった。
ということは。

広瀬くんの悪口を書いてあったとか?
それはないか。

悪口だけであんなに悩む事はないし。
うーん。

話の内容が見えて来ない!

あのかばんに閉まってあるプレゼントも気になるけど。
怒られたから、これ以上聞けないし。

もう全然わかんなくなっちゃったよぉ。



続く