「応援して」
「えっ?応援でいいの?」
「うん。僕ね、中学2年の頃から、一緒のクラスになってよく遊んだりしてたんだ。
 そして、中学3年の頃気付いたんだ。僕は広瀬くんの事がすきってことを」
「えっ・・・広瀬くんって、あたしと同じチームの広瀬くん?」
「うん。そうだたと思うよ」

ちょっと・・・
どうしよう。

広瀬くんは今、美恵ちゃんと付き合ってるなんて言えない・・・
いったいどうしたら・・・

「このことは、誰にも言わないでね」
「う、うん。わかってる」
「言わないって信じてるから」

「恵利菜ちゃーん」

後ろの方で、美恵ちゃんの声が聞こえる。
振り返ると。
息を切らしてあたしの目の前まで全力で走ってきた。

「美恵ちゃん、どうしたの?そんあに慌てて」
「だって、恵利菜ちゃんが級に走っていくから追いかけてたんだよ」
「あっ、ごめん」

そうだ。
あたし、走って逃げてきちゃってたんだった。

神田くんの衝撃発言ですっかり忘れてた・・・

「どうしちゃったの?恵利菜ちゃん、急に逃げちゃって」
「あのさ」

神田くんがあたしたちに話かける。

「高田さん。グループの人が見つかってよかったね。じゃあ、僕は消えるよ」

そう言うと。
自分のグループに合流してあたしたちと逸れてしまった。

「誰?あの人」

美恵ちゃんが不思議そうに聞いてくる。

「あの人は、同じクラスの神田くん」
「へぇー。いつのまに友達に?」
「今日、洗面場で顔洗っている時かな」
「そうなんだ。ところで、どうして急に走っていっちゃったの?」
「うん。広瀬くんが級にあんなこと言ってきたから。あたし、
 びっくりしちゃってつい・・・」
「そうだったの。広瀬くん、お調子者だから。許してあげてね」
「うん・・あたしがいなくなってから、何かあたしの事話してた?」
「広瀬くんが、ごめんて言っといてって言ってたよ」
「尚希くんは?」
「下向いてて、すごく暗い顔してた」
「そっかぁ。ありがと」
「もうちょっとしたら、広瀬君たちが来ると思うけど、どうする?」
「うん、待っとくよ」
「そっか。じゃああたしもそうするね」

あたしたちはトボトボとゆっくり歩き、広瀬君たちが追いつくのを待った。
だけど、追いついてくる事なく、ダムの前まできてしまった。

・・・
ザァーーー。

まるで滝のような尾tを立てて水を流す。
ダムって凄い勢い。
何もかも流し落としてくれそうな音。

あたしの悩みもこれで流せたらどんなに幸せな事だろうか。
そう考えながら見ていると。

広瀬くんたちが追いついて来た。

「高田さん」

広瀬くんがまじめな顔であたしを見詰める。

「・・・」
「高田さん、本当にごめんな。俺、言いすぎちゃって」
「ううん。もういいの。気にしてないから。こっちこそ
 急に走って逃げちゃってごめんね」
「ありがと、高田さん。ほら、仲居も何か言えよ」

広瀬くんが尚希くんの肩を押す。

「あっ、うん」
「早く言えよ」

広瀬くんが尚希くんをせかす。

「ごめんね、俺、ついカッとなっちゃって。本当にごめん」

「もういいよ。だから、顔上げてよ」
「うん」

そういうと、尚希くんは顔を上げた。

「このダム凄いよ。みんなでみようよ」

あたしがみんなにお勧めする。
みんなはダムを見学し始めた。


・・・
「・・・さ、帰ろうか」
「うん。そうしよう」

あたしたちはダムを見終え、帰路につく。
険悪なムードは見学している間に消え、いつもの楽しい会話に戻っていた。

戻っている途中。

バタッ!
前のほうで誰かが倒れたのに気付く。

見に行ってみると。
そこには、横向きに倒れている神田くんが見えた。

「神田くん!」

あたしは、つい叫んでしまう。

「どうしたんだ?」

先生が駆け寄り、神田くんの様子を伺う。

「何かあったのか?」
「急に倒れて・・・」

あたしが先生に答える。

「そうか。じゃあきみたちはそのまま帰っていなさい。
 先生が救援を呼ぶから」
「わかりました」

広瀬くんが返事し、あたしの腰を前に押す。
あたしは広瀬くんに押されるがまま、その場を後にした。
神田くんの事が気になり、後ろを向きながら歩く。

そんな様子を広瀬くんが見て。

「高田さん。神田って俺達のクラス?」
「うん。一緒だよ」
「そっか」
「もういいよ、あたし、自分で歩くから」

そういうと、広瀬くんはあたしの腰から手を離した。

神田くん。
ちゃんと肝試しの時までに体調が戻るのかなぁ。
もし、戻らなかったら。

広瀬君に告白・・・
出来ないんじゃ。

そう思うと、不安になる。
でも、広瀬くんは美恵ちゃんと付き合ってるし・・・

あぁー!
この先が見えない!

・・・
ブオォォーン。
神田くんを乗せたと思われる軽トラックが、あたしたちを横切る。

大丈夫かな・・・

「心配そうだね」

尚希くんがあたしの顔を伺いながら声をかけてくる。

「うん。ちょっとね」
「そんなに心配?」
「うん。心配」
「ふうん」

そういうと、尚希くんは無言になった。
どうして?
どうして無言になるの?

美恵ちゃんと広瀬くん。
そして、あたし。

尚希くん以外のメンバーは普通におしゃべりするけど、
尚希くんは一切口を開かなくなった。

結局、自然の家についても話そうとはしなかった。

あたしたちは部屋へ戻る。
途中で尚希くんはどこかに行ってしまった。

部屋に入るなり、広瀬くんが。

「どうしたんだ?仲居のやつ。急に元気がなくなってたみたいだけど」

広瀬くんが不安そうに言う。

「高田さん、何か心当たりある?」
「別に・・・ないけど。ただ・・・」
「ただ?」
「あたしが、神田くんの事が心配って言ったら、急に静かになっちゃったの」
「なるほどね」

広瀬くんが納得する。

「なに?何かわかったの?」
「ん?高田さんはまだ気付いてないの?」
「うん。何々?教えてよ」
「なっ、美恵ちゃん」
「うん。そうそう」

美恵ちゃんと広瀬くんはお互いわかったようなそぶりで
二人で納得してる。

「もうー。全然わかんないー」
「まぁ、そのうちわかるさ」
「?」

わかんないんだけど。。。
どういう意味なんだろう。

美恵ちゃんが何かに気付いたのか、窓の奥を見詰める。

「どうしたの?美恵ちゃん」

あたしが尋ねると。

「あれ、仲居くんじゃない?」
「えっ?どれどれ?」

あたしも窓から覗き込んでみると、そこには尚希くんと
女の子が立っていた。

「あの女の子、美恵ちゃん」
「うん。山下さん。山下千秋さんだね」
「やっぱり」

どうして山下さんが尚希くんと?

[俺にも見せろよ」

広瀬くんが割り込んで来る。
その光景を目にした広瀬くんが。

「何やってんだ?あいつら?」

あたしも目を細めて見る。
すると、山下さんが尚希くんに何かを渡していた。

プレゼント?
あっ!
受け取った・・・

山下さんが、走っていった。

「告白・・・されたんか」

広瀬くんがつぶやく。


尚希くんが動き出し、部屋へと向かって来る。
もう窓からは見えない視界に入ってしまった。

「何を渡されたんだ?」

広瀬くんが不思議そうにつぶやく。

数分後。
尚希くんが部屋に戻ってきた。
手にはもらったと思われるプレゼントが握られていた。

「仲居!」

広瀬くんが呼び止める。

「何かようか?」
「お前、さっき山下さんから何かもらってただろ」

尚希くんの目が点になる。

「!?どうして知ってるんだ?」
「いいからさ、何もらったんだよ」
「広瀬には関係ないだろ」
「知りたいじゃん。いいから教えろよ」
「やだね。何だっていいじゃないか」

そう言って、もらったプレゼントを自分のかばんに入れる。
プレゼントの影に、白い手紙のようなものも見えた。

「おい、仲居。その白い手紙は何だ?」
「これか?・・・まぁここじゃなんだし、後で言うよ」
「おう。白状すんのか」
「ちがうよ」
「じゃあ、一体なんだよ」

尚希くんが"ふぅっ"と、ため息をついて。

「そんなに知りたかったらこっち来いよ」
「おう」

広瀬くんが尚希くんの方へ近づく。

そして、その白い手紙だけを持って、外に出て行っちゃった。
一体、何て書いてあるんだろう。

「気になる?」

美恵ちゃんが聞いて来た。

「うん。ちょっとね。」
「本当にちょっと?」
「ううん。いっぱい・・・かな」
「あたしが後で広瀬くんに聞いといて上げるから心配しなくていいよ」
「うん、ありがと」
「んっ?」

美恵ちゃんが何かに気付く。

「どうしたの?」
「恵利名ちゃん。仲居くんのかばん、空いてるよ」
「あっ。本当だ」

尚希くんがチャックを閉め忘れたかばん。
花柄の包装紙に包まれたプレゼント。
赤いリンボに包まれている。

綺麗なリボン結び。
左右の長さが綺麗にそろってる。

大分練習したんだろうなぁ。
たった一本のリボンをくくるだけなのに。

プレゼントの大きさは。
縦横10センチ位。
奥行きが20センチ位の少し大きめなプレゼント。

あたしたちがかばんの側によって見ていると。

「なにやってんだよ!」

広瀬くんと尚希くんが帰ってきてた。
尚希くんが慌ててかばんに近寄る。

「ごめんなさい。つい」
「中身、見てないだろうな?」
「うん。見てない」
「まったく。油断もスキもありゃしない」

そういって。
かばんのチャックを閉めてしまった。


あれ?

さっきの手紙を持ってない。
かばんにも入れてなかったし。

どこいっちゃったの?
手紙は?

「俺、トイレ行ってくる」

そういうと、尚希くんは行ってしまった。

「広瀬くん」

美恵ちゃんが広瀬くんに近づく。

「ん?どうしたの?」
「さっきの手紙、何だったの?」
「さっきのか。・・・なんでもなかったの」
「なんでもないって?」

広瀬くんはやけに否定する。

「だから、どうでもいいだろ」
「えっ」

美恵ちゃんの行きが一瞬つまる。

「俺もトイレ行ってくるわ」

そう言って、この部屋を出て行っちゃった。


ペタン。
何かが倒れる音がした。
振り返ってみると。
そこには美恵ちゃんが跪いていた。

「広瀬くんが・・・」
「美恵ちゃん・・・」
「初めて教えてくれなかった・・・」
「そりゃぁ、そういうこともあるよ。人間だもん」
「でも、凄く悲しい・・・心が痛む・・・」
「・・・たしかに・・・」

広瀬くん。
一体何だったの?

美恵ちゃんにも言えないこと?
そんなに言えない事が書いてあったの?

わかんない。
知りたいよぉ。

素敵なオリエンテーションが。
幻へと消えていくように。

高校生活始まって即効。
こんなことが起きるなんて。
恋愛ってこんな疲れるものなんて。
思ってもいなかった。

もっと楽しいものだと思ってたのに・・・

こんな状態。
一体、いつまで続くの?

早く抜け出したい!

結局。
広瀬くんと尚希くんは。
部屋へと帰ってくる事はなかった。



続く