最初は。
すごく見詰められたりして。
すごく怖かったのに。

今、見詰められたら。
何だか、ドキドキする。
そんな感じなの。

あたしは、尚希くんが好きなのかも。
高校になって。
初恋が出来たんだ。

「どうしたの?」
「えっ」
「いや、なんか真剣な顔になってたから。どうしたのかなっと」
「ううん。なんでもないよ」
「そっか。なら、良いんだけど」

!?
仲居くん。
いま、あたしを。
心配してくれたの?

だとしたら、凄く嬉しい。
そう思っただけで。
頬が真っ赤になりそうで。
今日一日中ドキドキが止まりそうにない。

こんなに恋愛がすごいものだなんて。
思ってもいなかった。

「恵利菜ちゃーん」

美恵ちゃんの声が聞こえる。

「帰ってきたよー」
「お帰りー。あれ、広瀬くんは?」
「もうちょっとしたら来ると思うよ」
「そっかそっか」

美恵ちゃんがあたしの耳に手をあて、口を近づける。

[恵利菜ちゃん、どうだった?上手く話できた?]
[うん、出来たよ。あたしね、今気付いたんだけど]
[何に気付いたの?]
[あたしね、仲居くんのことが好きになっちゃったみたい]
[おー!そうなんだ!やったね!]
[これも美恵ちゃんが手助けしてくれたおかげだよー]
[そんな事ないよー。これは、恵利菜ちゃんの努力の印だよっ]

「何話してんの?」

こそこそ話ししているあたし達に尚希くんが不思議そうに質問する。

「ううん、別になんでもないよー」
「本当か?わかった!俺の悪口でも言ってたんだろー」
「そんな事言ってないよー」
「そうか?あやしいなぁ。まぁ、いいけど」

ダダダダダッ。
後ろから走ってくる音が聞こえる。

「いえーい!」

広瀬くんだ。

「広瀬くん、おそーい!」

美恵ちゃんが叫ぶ。

「ごめんごめん、向こうで友達に止められてね」
「ふふっ。しかたないなぁ。許してあげるっ」
「そっか、サンキュー!」

美恵ちゃんと広瀬くんは仲よさそうにニコニコ話す。
そんな姿を見て、尚希くんがあたしの耳元で話しかけてきた。

[ほらな、加藤さんと広瀬。すごく仲がいいだろ?]
[うーん・・・どうだろ?]

あたしは知らないフリをする。

[絶対付き合ってるって。俺、そういうのは見破るの上手いから]
[そうなの?]
[うん。中学の頃だって、人が付き合ってるかどうか当てるのは凄く上手かったし]

自信ありげに言うので、少し試してみる。

[へぇー、じゃあさ。あたしはどっちと思う?付き合ってるか付き合ってないか]
[えっ?恵利菜ちゃん?]
[うん。ズバリ、あたしは?]
[恵利菜ちゃんが付き合ってたら、俺は・・・]

尚希くんの声のトーンが低くなる。

[ん?]
[いや、そうだな。付き合ってない!]
[ほーほー]
[どう?あたってるでしょ?]
[うん、そうだね。あたってる]
[ほらなっ!俺は当てるの上手いんだよ]

尚希くんは得意げに言う。

[そうだね、さすがって感じ]
[だろ?]

「おい、何さっきからボソボソ二人の世界作ってんだよ」

広瀬くんが横から割り込んで来る。

「そういう広瀬こそ、人のこと言える立場じゃねぇだろ」
「俺?俺は違うもん」
「何言ってんだ。お前、加藤さんの事が好きなんじゃなねぇのか?
 はっきり言っちゃえよ」
「へぇ。じゃあ、お前も高田さんに早く告白すれば?」
「えっ!?」

うっ。
つい、声を上げてしまった。
まさか。
尚希くんも。
あたしの事が好きなの?

本当に?
やだっ。
頬が赤く染まっちゃうよぉ。

こんな顔。
広瀬くんや尚希くんに見せらんないよ。
すごく恥ずかしいっ!

そう思うと。
あたしはその場にいる事が出来ず。
気が付いたら、その場から走って離れている自分に気付く。

後ろから広瀬くんと美恵ちゃんの声が聞こえたけど
あたしの足は止まらなかった。

・・・
どれくらい走っただろうか。
息が乱れて深呼吸も出来ない位走った。

あの場所を。
逃げちゃった・・・

今考えたら、どうせハイキングが終わればまた会わなくちゃいけないのに。
やだな。

広瀬くんのバカ。
どうしてあんな場所でそんなこと言うのよぉ。

あたし。
すごくドキドキしちゃって。

ほら。
今でも、ドキドキが止まらない!
走りすぎたってのもあるけど・・・
それだけじゃないもん!

息を切らしながら走るのを止め、トボトボと目的地へ一人歩く。
目の前には咲きに出発したもうひとつの男子グループが歩いていた。

ゆっくり歩くそのグループたちにあたしは追いつくと。
後ろを歩いていた男の子がこちらに気付き、声をかけてきた。

「やぁ、どうしたの?きみは僕たちのグループじゃないはずだけど」

よく見ると、その男の子は洗面場で出会った男の子だった。
心配そうにあたしを眺める。

「うん、ちょっとね」
「グループからはぐれちゃったの?」
「まぁ、そんなとこかな」
「じゃあ、僕たちのグループに混ざる?」
「えっ、いいの?」
「うん。ひとりで歩いているのも寂しいだろうし」
「ありがとう。じゃあ、一緒に行かせてもらうね」
「うん。そういえば、今日は本当にきみと良く会うね」
「そうだね、洗面場でも会ったよね」
「もう2回も会話しているのに、名前をちゃんと聞いてなかったね。
 名前は何ていうの?」
「あたしは、高田恵利菜だよ」
「へぇー。恵利菜ちゃんって言うんだ。良い名前だね。
 僕は神田信雄。よろしくね」
「こちらこそっ」
「ん・・・?」

神田くんがあたしを覗き込む。

「どうしたの?」
「いや、なんか息切れしてるみたいだから」
「あ、うん。走ってきたから」
「そうなの?誰かを追いかけてたの?」
「ううん。別に意味はないんだけどね」
「意味なく走ってたの?高田さんって面白いね。変わってる」
「変わってるでしょ」

なんとかごまかせた・・・かな?
まさか。
あんな事、いえるはずないもの。

「ねぇ、高田さん」
「ん?なぁに?」
「彼氏とか、いるの?」
「えっ!?どうして?」

いきなりの質問にびっくりする。

「いや、高田さんって可愛いからいるのかなーと思ってさ」
「いないけど・・・そういう神田くんは?」
「僕かい?僕は好きな人はいるんだけど、絶対に不可能な恋だから」
「そんな事ないと思うよ。何とかすれば、恋は芽生えるはずだよ」
「そうだといいんだけどね。でも、たぶん無理」
「好きな人って、この学校の人?」
「うん、そうだよ。僕と一緒の中学だった人なんだ」
「へぇー。頑張らなきゃね、お互い」
「そうだね・・・」

一瞬、沈黙が走った後。

「高田さん」
「ん?」
「僕の恋、よかったら手伝ってほしい!」
「へっ?あたしが?」
「うん。もし、良かったらで良いんだけど」
「でも、あたしは付き合った経験もないし、告白した経験もないから、
 アドバイスできないと思うよ」
「うん。いいんだ。きみがいてくれるだけで、僕は落ち着くから」

落ち着く?
そんなの急に言われたらはずかしいよ。

「・・・あたしは何を手伝えばいいの?」
「あのね。今日、告白しようと思ってるんだ。そこで、手伝ってほしいなと」
「今日するの?どこで?」
「キャンプファイヤーが終わって、肝試しの時に告白しようかと」
「えっ!?肝試しなんてあるの?そんなの聞いてないよ~」
「うん。これは、オリエンテーション委員会で決定した事なんだ。
 だからまだ発表してないんだよ」
「うぅぅ。怖いの苦手・・・組み合わせとかあるの?」
「組み合わせはあるんだけど、僕は通った人を驚かせる役だから、
 誰かと一緒に回る事はないんだ」
「そうなんだ。じゃあどうやって告白を?」
「その人と一緒に驚かせる役をすれば、必然的に二人になる時間があるからね」
「なるほど」
「まぁ、この恋愛は実らないけど、告白することによって諦めがつくから」
「・・・たしか、オリエンテーション委員ってとこの子だけが委員だったんじゃ?」
「うん、そうなんだ。もうわかったろ。僕が一体誰に告白するのか」
「もしかして、男の子?」
「・・・うん」
「えーーーーっ!」

一瞬悲鳴を上げてしまった。
すると。
神田くんはあわててあたしの口を塞ぐ。

「もう、大きい声だしちゃだめだろっ」
「ごめんなさい。つい・・・」
「ここで、手伝ってほしい事がひとつ」
「・・・うん・・・」

あたしは息を飲む。


続く